海賊という集団の中で大半を占めているのは野性的であり、肉食系な人間であると思う。というのも、航海をするには命懸けなんだからそうでないと船員は勤まらない。女性を船に乗せるのはよくないと言う野郎も居るがそんなの俺らには関係ねェ。海に出たけりゃ出ればいい。戦いたければ戦えばいい。女性に手を出すような野郎を許しはしねェが、強い女性は魅力的だ。俺はそう思う。



「フルーツタルトが焼けたぜ」

「あ…ありがとう」



一人で海を眺めていた女性――むーちゃんに声をかけると、どこか幼さの残った柔らかい笑顔を浮かべた。
彼女がここに来た経緯を俺は知らない。俺が初めてこの海賊と顔を合わせた時には既にそこにいて、守られていた。その後彼女が“この世界”の人間では無いことを聞いたが正直嘘か真かは不明。嘘をついているとは思えないが、有り得る事なのかも俺には判断出来ることじゃない。
そんな彼女を表すなら、肉食系や野性的とは180゜の位置に居る内気な草食系女子が正にその答えだろう。強いか弱いかで言えば圧倒的に弱い。航海の知識も無ければ戦闘知識も無い、女性と言うには幼い彼女は本当にただの女の子だ。



「どうだ?」

「ん、美味しいよ」



差し出したタルトを美味しそうに頬張る彼女を見る。小さい一口を頬に溜め、もぐもぐという擬音がピッタリな食べ方をする彼女を見て浮かんだのはハムスターの姿だった。
ナミさんとロビンちゃんは強い。この船に乗ってる人間は、仲間の贔屓目無しにしても強いと言い切る自信がある。船長であるルフィは勿論だが、拾ってもらった俺らの命は奴に捧げられていると言っても過言では無いだろう。それだけの覚悟があるのだ、居るのだ、海賊ってのには。



「まだまだあるぜ?」

「ん、ありがとう、でもお腹いっぱいだよ」

「相変わらず少食だなァ」

「私は普通だよきっと、みんながよく食べるから」



比べて目の前の彼女は一体どうだろうか。血を見れば怯え、敵を見れば不安そうな表情を浮かべる。そんな彼女がどうして一緒に旅をして居るのか、今でも時々不思議に思う瞬間がある。無防備な横顔はいつ見たって優しく綺麗で、真っ白だ。透き通った瞳に吸い込まれそうになる時もある。ただそれは、俺たちにとっては透明すぎて、直視するには眩しすぎる。何も知らない彼女は神聖で、触れるには少し躊躇いが出る。触れて気付く、思い知るのだ自分の濁りを。



「静かだね」

「あァ、次の島では久々にゆっくり買い物がしてェもんだ」



用意した二切れを食べた彼女はお皿を傍におき、相変わらず視線は海に向いていた。
空になった皿を持ち立ち上がると、彼女の視線がゆっくりと俺に向いた。手伝うよ、と立ち上がった彼女はフラリとよろめく。手を差し伸べると彼女は何の躊躇いもなくその手を掴んだ。何も知らない彼女の小さな手を、ゆっくりと握り返す。
彼女は海賊には向いていない。そしてきっと、彼女がいることによって俺らの旅は幾らか制限される。自由に動けず、時には迷惑な存在にも成り下がるだろう。



「ありがとう」



だけど、どうしてか。何故だか彼女を離したくないと思う気持ちは強く根付いている。きっと俺だけじゃない、みんなそう思ってるに違いない。



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -