本当に何やってんだろうなぁって思えちゃうくらい何にもない毎日。
何となく勉強したり喋ったり、たまに浅羽くん見かけてドキドキしたりしながら放課後を迎えて、いつもみたいに部室に引きこもり。
こんなに平和でいいのかなぁなんて考えながら今日は部室をちょっとだけ片付ける。
今日は松下くんも来てなくて本当に一人。
もう部室閉めて帰っちゃおうかなぁ…とも思ったけど、もし誰か来たとき困るだろうからそれは思い止まった。



「…うお、」



窓を開けると机に置かれていた原稿が舞い上がり、誰のかわからないペンやフィギュアが床に転げ落ちた。
前にもやってしまった事をまたやってしまった。
今回は誰にも迷惑かけてないけどさ、なんか、虚しい。

もう夏も近く、セーターさえ暑いと感じてしまうような季節。
狭い部室は湿気でなんか紙とかダメになりそうで思いっきり窓を開けたのが間違いだったんだ。
何も考えていなかった自分の行動をほんのちょっとだけ恨んだ。
仕方なく床に散らばった紙を拾いい集めるけど、よく見ると紙とかペンだけじゃなくて消しカスとかもいっぱい落ちてて相当汚い。



「……」

「…え、待っ、」



ガチャッと開いたドア。
ドアを開けた主と一瞬目が合ったけど、そのドアはすぐに閉められる。
静かな空気が戻ってきてからもボーッとドアを眺めていると、しばらく経ったときにまたドアがゆっくりと開いた。
片目だけが見えるくらいの隙間から、彼、浅羽祐希くんはじとっとした目で私を見下ろしていた。



「…なにしてるんですか」

「……掃、除?」

「………疑問を疑問で返してこないでください」

「…え、ま、待って待って、」



パタン、とゆっくり閉じてしまいそうなドアノブを引っ張ってそれを阻止。
私なりに力を入れているつもりだけど、彼は相変わらず表情一つ変えずに向こう側からドアノブを引っ張る。
しばらくそんな攻防を繰り広げていると、彼はドアを引っ張る力を少し緩めた。(相変わらず顔は半分くらいしか見えないけど)



「……何してんの?」

「…掃除……?」

「……だから疑問を疑問で」

「そ、掃除!掃除してるのだから、あの…」



また閉まりそうなドアを無理矢理引っ張り、あ、っていう彼の声と共にようやく姿が全部見えた。
相変わらず無表情。
本当に綺麗な顔。
見惚れそうになるのと照れそうになるのを抑え込んで、手伝ってほしいなぁと遠慮がちに伝えた。
ぐるっと部室を見渡して大体の状況を掴んだのだろう、小さく溜め息をついてリュックを机にドサッと置いた。
床に散らばった原稿やペンを拾い始める。
言ってはみたもののまさか本当に手伝ってくれるとも思ってなかった私はびっくりして、しゃがみ込んだ彼を見てた。



「見てないでやってください」

「ご…ごめんね…」



私も慌てて同じようにしゃがみ込んで紙を拾い集める。
数十分かけて部室は元の姿よりも随分と綺麗になった。
私も彼ももう汗だく。
長袖を肘上まで捲り、椅子に座って下敷きで自分を扇ぎながらぐるっと見渡した。
祐希くんは相変わらず無表情で扇ぎ続けてて、今さら有難いけど申し訳ない気持ちが込み上げてくる。



「ごめんね」

「…ジュース1本でいいですよ」

「…はは、ありがとう」



窓の鍵を閉めて、部室ももう誰もこないだろうって鍵を閉めることにした。
ジュース一本で部室がこんなに綺麗になるのなら安いもんなのかもしれない。



「祐希、終わったの?」

「うん」



祐希くんと特に会話もなく歩いてたら、前から悠太くんと塚原くんと松岡くんが歩いてくる。
皆で話し始めて、私邪魔だろうなぁって思ってお疲れ様と声を絞りだしてその場から足を動かした。
お疲れとかまた明日とか皆が声をかけてくれてちょっと嬉しい気持ちのまま皆に背中を向ける。
ジュースはまた今度でいいかなぁってそんなことを考えながら、いつもより少し軽い足取りでバス停に向かった。


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