本屋さんの用事を済ませ、流れで近くの公園に来た。
祐希くんを挟んでベンチに座り、店長さんは悠太くんと私にジュースを渡してくれて、私の横に座った。
「あのー…オレには…?」
「あ?おめーは関係ねーだろ。」
「え…だったらむむむさんも関係ない…」
「お前…バカ野郎だな本当に」
「……すみません」
「お前はほれ、タバコ買ってこい」
「は?いやですよ、ていうかしれっと命令してますけどオレもうあなたのとこのバイト生でもなんでもないんですから気安く――」
珍しく饒舌になった祐希くんが、店長さんの「タバコ買ってこい」にグダグダと反抗姿勢。
そんな姿に店長さんはまるで指でつまみ上げるかのように、つらつらと言葉を並べる。
理不尽だと思えなくもない言葉だったけど気持ち押され気味な祐希くんは素直に頷くしかないみたいだった。
小銭と煙草の空箱を受け取ると座っていたベンチから立ち上がる。
「むむむさんも、行こ」
「私?うん、いいよ」
「お前…煙草買うくらい1人で行けんだろ」
「ジュース買ってもらったんだしお返ししなきゃですよ」
「そうだね」
「おつかい行ってきたらオレにもジュース買ってくださいよー?」
笑った私と隣に並ぶ祐希くんを見た店長さんは大きな溜め息を吐いた。
煙草が売ってる自販機にお金を入れて、渡された箱と同じものを探す。
「全部一緒じゃん…」
「ほんとだねぇ…あ、これじゃない?」
「あ、ほんとだ」
目的の煙草を手にして悠太くんと店長さんの方を見ると、二人は何やら話し込んでいる様子。
「オレと悠太のときじゃ全然態度が違うんだよ、あの番長」
「…祐希くんずっと番長って言ってるけど、そんなに怖い人なの?」
「鬼ですよ、鬼……おまたせしました。こちらおタバコのお客様」
「おーご苦労ご苦労」
ゆっくりと二人のところに近付いて、ずいっと煙草を差し出した祐希くんに、店長さんは労いの言葉でをかけた。
祐希くんがまたグチグチと店長さんに毒を吐きながらベンチに座る。
なんか、今日の祐希くんはいつもより子供っぽいというか、学校じゃ見掛けない姿に見える。
「あ。昨日うちのお母さんが手の上で豆腐切ってたんですけど」
「………え?」
「豆腐。お母さんが手の上でこう、包丁で。オレ手ぇ切る?って思ったんですけど案外切れないもんですねー」
「……まああれは包丁真下に軽く落としてるだけだから切れたりは…しないんだけど………つーか、お前「お母さん」っつってんの?」
「え?だってお母さんはお母さん…むむむさんは?」
「え、私もお母さんだけど…」
「ちげぇだろ女子はいいんだよ。じゃなくてお前今いくつよ、普通だったらもう「母さん」とか「母ちゃん」にシフトチェンジし終わってるだろ」
店長さんの言う言葉に、うーんと考え込む祐希くんと、それを後ろから見守る悠太くん。
すると意外なことに、祐希くんの口から出てきたのはお母さんが可愛いとかうざいとか感じたこともないとかそんな言葉。
意外、っていうか、なんか、祐希くんいい子なんだなぁって漠然とそんなことを思う。
話を聞いてるとお父さんのことはあんまり好きじゃないみたいだけど。
笑った店長さんは、私の右肩に手を置いてゆっくりと立ち上がった。
「オレそろそろ行くわ。お前らもぼちぼち帰れな「お母さん」が心配しないうちに」
「え、店長帰るんですか?ちょっとっ、オレにもジュース…」
と、店長を追い掛けて立ち上がった祐希くんが店長に捕まって、何故だか無精髭を顔に擦り付けられている。
すぐに祐希くんの方から離れたけど、なんか、凄い光景だったな…。
「とーちゃんとも仲良くな」
去っていく店長さんをボーゼンと見詰める祐希くんと、それを見詰める私と悠太くん。
「……悠太なんしゃべった……?」
「……いや?べつに大したことは…」
「うそ!じゃあなんで2連チャンであごひげ攻撃うけなきゃいけないの!?」
「それはあのー…流行ってるからじゃないすかね」
「流行ってるわけないじゃん!」
突然勃発した兄弟喧嘩。
原因は悠太くんにあるのか、なんか祐希くんがめちゃくちゃ饒舌になってて、悠太くんが押され気味だ。
かなりご機嫌ナナメの祐希くんは、結局悠太くんにジュースを奢ってもらって喧嘩は終わったみたいだけど。
「そういえばむむむさん、その荷物って…」
「これね、今日は父の日だからお父さんにプレゼント」
「えらいね」
「そんな高いものじゃないんだけど…」
「値段じゃないでしょ、こういうのは、気持ちだよ」
悠太くんの優しい言葉に温かくなる気持ち。
早く帰ってお父さんに渡したいなって、照れ臭いけど、言わなきゃなって。
ありがとう、って。
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