期末テスト一週間前。
もともと部活をしてない私には、いつもとはそんなに変わりのない放課後なんだけど、部活が休みの分、心なしかいつもより人が多い。
教室も、図書館も、廊下も、いつもは静かなこの時間が凄く賑やかに感じる。
そんな私も少しだけ図書館で勉強をしてきた。
家に帰ったら教科書を開くことなんてきっとしないだろうから、それなら少しでも学校でやったほうがいいかなと思って。
結局のところは途中で飽きちゃったわけだけど、まぁ、まだ一週間前だし、いいかなって。
鞄を持って廊下を歩いていると、やっぱり勉強してない生徒も沢山いるようで、あちらこちらから楽しげな笑い声や喋り声が聞こえてくる。
「あ!むむむさーん!」
もう何度も呼ばれているこの呼ばれ方とこの声に反応して、下を向いていた視線を上げる。
やっぱりいつものあのメンバー、…と、今日はもう1人、長身の少年が一緒にいた。
「もう帰んのか?」
「うん、まぁ、そんな感じ。やることないから帰ろうかなって」
「え、やることないの?ってことは暇って事だよね?」
グイグイくる橘くんに、これはまた皆で何かやってるんだろうなって勘が働く。
「ちなみにこちら1年生の梅坊!ほら梅坊、先輩に挨拶!」
「あー…えーと……1年5組、梅田孝太郎です」
「梅田くん、えーと…大きいね」
ずば抜けた身長で猫背、前髪がかかってよく見えない瞳が、対応の仕方をわからなくさせる。
首からぶら下げたカメラが目に入り、なんか、やっぱりきっと、凄く下らなくて、でも最高に楽しいことしてるんだろうなって、今までの経験がそんな思考を導き出す。
「梅田くんは新聞部で、今みんなで面白い記事書こうと頑張ってるんです!」
「へぇ、新聞部なんだ」
「そこで!むむむさん暇ってことだし、一緒にやろうよ!」
「うん、なんか、楽しそうだね」
そんな流れで参加することになった新聞部の活動。
新聞部ってちゃんと活動してるんだなぁってのが正直な感想で、でも梅田くん真面目そうだしなぁっていうのが結論。
「って言ってもあとは記事を書くだけなんですけどね」
その言葉の通り、取材とかは一通り終えたらしく、あとは部室で新聞の記事を書くだけだった。
初めて入る新聞部の部室に興味津々。
出来上がった新聞の内容は「テストは必要なのか?」っていう、なんていうか、何とも彼ららしいもの。
たまたま現れた先生に取り上げられちゃったのが何よりも残念だ。
「先生も取り上げるこたねえよな!」
「きっとオレたちの勢力を恐れたんだぜ!?」
「オレはもはやお前がアホすぎて怖くなってきたけどな…」
逃げ込んできたのはプールで、まだ授業も始まってないこの時期にここに入るって不思議な気分。
だけどプールサイドには参考書や教科書が散らばっていて…あれ。
「ばれちゃいましたね」
「実はここでひっそりと勉強してました」
なんて会話をしているうちに、塚原くんと橘くんがプールに落ちていった。
参考書は無事だったみたいだけど、橘くんに助けを求められた松岡くんが腕を引っ張られて落ちて、悠太くんは後ろから走ってきた祐希くんに飛び付かれた勢いで水の中に消えていった。
跳ね返った水が残された私と梅田くんの制服や靴を濡らしていく。
バシャバシャと楽しそうな5人と、隣でシャッターを切り始める梅田くん。
まるで漫画の中みたいな、ドラマみたいな青春の瞬間。
「賑やかだよねぇ」
私の言葉に頷いた梅田くんは、沢山のシャッター音を鳴らしていた。
一通り遊んでプールサイドに上がってきた5人。
「今日だけですげえ撮ったな」
「はい…先輩たちを見てると…思わずシャッターをきりたくなる瞬間がたくさんあるから…」
なんだろう、なんていうのかなぁ、この瞬間、この感じ。
「オレも楽しい3年間が過ごせたらいいな…この穂稀高校で」
この感じ。
ドキドキしてワクワクして、それからキラキラしてて。
「梅坊ーっ!あがるからちょっとひっぱってーっ」
「あ、はい…」
「とみせかけてー!」
「わーっ梅田くんーっっ!」
「むむむさーんあがるからちょっとひっぱってー」
「それはダメだろ!!」
「ふふ、頑張ってあがっておいで」
そうだ、うん。
やっぱりこれは青春そのもので、私の高校生活は、ドキドキしてワクワクして、それからキラキラしてる。
素敵な瞬間、なんかもうこの瞬間がずっと続けばいいのになぁと思った。
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