気付いたときには、体育祭はもう随分前のイベントになっていた。
廊下の壁に張り出された写真の光景が、既に少し懐かしい。
「写真もう買った?」
「あ、ううん、まだちゃんと見てもないよ。人いっぱいで近付けなかったんだ」
「群がってたもんねぇ特に女子」
体育祭の写真が張り出されたのは今朝のこと。
お昼休みまでは賑わってて、放課後になった今になってやっとちゃんとみられる状況になった。
袋を手にとって、岬ちゃんと並んで写真を眺める。
「それにしても多いな…」
「ねぇ。あ…いつの間に撮ってたんだろうこんな写真…なんかやだなぁ自分の写真…」
「なんでよ、いいじゃん!私買っちゃおっかな」
「やめてよー恥ずかしい!」
本当に番号を書こうとしてる岬ちゃんとそんな攻防を繰り広げる。
静かな廊下によく響く声。
あ、なんか青春っぽいなぁって思った。
「あ!なんかしてる!」
「なんかって写真選んでるだけですけどー」
「どの写真買うの?俺の!?」
「何言ってんの、お金の無駄」
「なにをー!?」
岬ちゃんと橘くんのやり取りを見ながら込み上げてくる笑い。
仲良しなんだかそうじゃないんだかよくわからないんだけど、見てると楽しい。
「どれ買うの?」
「まだ決めてないんだけど…」
「これは?73番、ゆーたがかっこいいよ」
「祐希…むむむさんに俺の写真勧めたって仕方ないでしょ」
「なんで」
「なんで、って…」
呆れながらも優しい言葉を返す悠太くんと、甘える祐希くん。
仲良い双子だなって思う。
並んでみれば改めて二人で本当にそっくりで、綺麗で格好よくて、モテるのだって当然。
噂によると悠太くんや祐希くんの写真はかなりの人数が注文したみたいだし。
私も、欲しいなぁとは思うんだけど、なんか書けないよね、なんか。
「懐かしいですよねぇ」
「そんな前の話じゃねぇだろ体育祭なんて」
「でもこうやって思い返してみると、懐かしいって気持ちになりませんか?」
「なんねーよ」
「私は懐かしくなったよ」
「あ!やっぱりそうですよねぇ」
ニコニコした松岡くんに私も笑うと、塚原くんは横で小さくため息を吐いた。
クールだね、塚原くんは。
あんなこともあったよねぇ、とかそんな話で小さく盛り上がる。
「ね、盛り上がってるのはいいんだけど写真どうすんの?」
「あ、そうだどうしよう」
岬ちゃんに呼ばれて、私もちゃんと封筒に番号を入れていく。
って、言っても、そんなにないんだけど。
「買ってくれないんですか」
「え、どれ?」
「125番」
「125…あ、応援団の」
スッと私の隣に寄ってきた祐希くんがそう言って、見てみると応援団のときの写真だった。
泥だらけで、団長に肩を組まれている祐希くんの表情はいつもの無表情ではなくて。
どうしようかなって迷ってると買ってくれないんですかってまた言うから、私は封筒に125って数字を書いた。
こういうのは全然いい、全然楽しいし、言ってくれた方が買いやすい。
「あ、73番も是非」
「だから、祐希ってば…」
「いいじゃんいいじゃん、73番!こんなかっこいいゆうたんの写真なんて二度と手に入らないかもしれないよ!?」
「何言ってんだよサル」
「え?何?俺の写真も買えって?むむむさん要っちの写真も…」
「うるせぇよ馬鹿言ってんじゃねぇよサル!」
賑やかな廊下。
塚原くんと言い合ってる橘くんを気にすることなく、隣の祐希くんは73番をずっと勧めてくれている。
岬ちゃんも来て「書いちゃいなよ」って言ってくれたから、緊張する手で数字を書き込んだ。
本当は欲しいなって思ってたから、だから嬉しくて、一人で照れる。
「なんかすみません…」
「何で謝ってんの、ゆーた」
「祐希のせいだよ」
「あ、俺のせいにした」
兄弟の言い合いを横目に岬ちゃんは私の肩を二度、軽く叩いて、ニッコリ笑った。
口パクで「良かったね」って、その言葉にまた喜びが溢れ出てくるような気持ちになった。
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