『今日は晴天にも恵まれ、絶好の体育祭日和です!先輩後輩、クラスの仲間、みんなで練習してきた成果が発揮できるようみなさん協力して頑張ってください!』
気合い十分の放送が鳴り響き、トラックを囲うようにクラス毎に敷かれたブルーシートの上で皆が大きな声を上げる。
クラスの男の子が振り回す旗は昨日描いたものだ。
「青いね」
皆が旗の裏に残した青い手形は何だかとても輝いて見える。
クラスの一体感、みたいな。
青春だなぁなんて事を思う。
「もうすぐ障害物だよ、むむむさん行こう」
「行ってらっしゃい」
「頑張れよ」
皆にそんな声を掛けられ、障害物に出るもう一人の子と一緒に集合場所に向かう。
緊張するね、頑張ろうね、って。
普段余り話さない子と話したり仲良くできるのも楽しい。
修学旅行のときもそうだったけど、私みたいに普段静かな奴にとってはこういう行事って凄く貴重で大切だと思う。
『位置について、ヨーイ…――』
パンッ、と響くスタートの銃声に合わせて私も走り出す。
ハードルを越えたり、網をくぐったり平均台をバランス良く渡っていく。
「むむむさん頑張れー!」
「まだいけるよー!」
前にはあと二人。
1着なんて狙ってないけど、応援されるってなんだか少し照れ臭い。
最後の障害物は、底の薄いステンレスのお皿に敷き詰められた小麦粉の中に隠されている飴を探して食べるっていうもの。
息で小麦粉を飛ばして飴を探す。
手は使えないから飴を咥えて、鼻や口の回りに付いたであろう小麦粉を拭きながらゴール。
結果は1人を抜かして2位。
「おめでと」
「おめでとう?なのかな、二番だったけど」
「じゅーぶんじゅーぶん」
お疲れさまってタオルを持ってきてくれた岬ちゃんと一緒に冷たいジュースを買いに行く。
まだ1つの競技だけしか出てないし始まったばっかりのにもう汗がすごい。
私が瓶のラムネ、岬ちゃんはコーラ。
あっついねーって言いながら飲む炭酸はとっても美味しい。
「あの三人はどこ行っても何やっても騒がしいね」
「賑やかでいいと思うけどなぁ」
「あれは賑やかなんじゃなくて、騒がしいっていうの」
トラックの上でグダグタ進んでいる3人は、周りの笑いと苦笑いを誘って断トツのビリでゴールをしてた。
ワァワァ言いながらジュースを買いに来た3人にお疲れさまって声を掛けると、橘くんは聞いてよー!って私の肩を揺する。
「ゆっきーのせいで!ビリ!」
「あーあ、またオレのせいにする」
「まぁまぁ楽しかったんだからいいんじゃないですか、ゴール出来たし」
「いや松岡、ゴールは誰でも出来るから」
「あー悔しい!だからコーラ頂戴!」
「いや意味わかんない…」
手を伸ばした橘くんに岬ちゃんは呆れながらも飲みかけのコーラを渡す。
「次騎馬戦だったよね」
「負けないからな!」
「私たちじゃなくて塚原と浅羽に言ってくれる?」
「オレらが何だって?」
歩いている来た塚原くんと悠太くんが3人に対してさっきのムカデリレーの厳しい感想を述べた。
「ねぇむー、手、洗いにいこ」
「あ、うん…じゃあ、騎馬戦頑張って」
「そうやってゴミを押し付けるな!」
「ゴミじゃないよ、まだ中入ってるよ」
押し付けたラムネの瓶を見て呆れたように少し目を細めた塚原くんに何だか笑えてくる。
塚原くんって、なんかいいんだよね。
「悠太くんも頑張ってね」
ほんの少し、緊張しながら掛けた私の声に頷いてくれた姿に胸がキュンとした。
「あっつー」
これからまだまだ暑くなる。
額に汗を滲ませながら、冷たい水で冷やした手を頬にあてた。
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