少しずつ、少しずつ。
体育祭へ向けての色々な準備を進めていく。
「むむむさんちょうどよかった!今から時間ある?」
「あ、はい大丈夫です」
「よかった。あのね、今から体育祭のプログラムの冊子を作るのを手伝って欲しいのよ。作るって言ってもとりあえずコピーだけなんだけど」
「はい」
「教員や当日に手伝ってくれるの委員の子たちに配布する分だからそんなに時間はかからないと思うんだけど」
やってくれる?の問い掛けにわかりましたと返事をして、肩にかけたばかりの鞄を下ろす。
職員室に着いていって頼まれた分のコピーを済ませていく。
「おっ、ちょうどいいところに」
そうやって現れたのは英語の先生。
ついでにこれも頼むよと渡された分のコピーをして、あとはクラスの人数に合わせてそれを分けていく。
俺の机使っていいから、と言ってくれた英語の先生の机は意外と綺麗だった。
「助かったよ、これでジュースでも買ってくれ」
そう言って渡された100円玉を握り締めて、私は素直に自販機に向かう。
もう外はほんのりオレンジ色。
ピッとボタンを押して取り出したジュースを取り出して歩くと、目の前には見覚えのある背中がトボトボと歩いていた。
話し掛けようか迷ったけど、何と無くやめた。
パックからストローを外して差し込んで、パッと前を見る。
「…あ」
「どうも」
見慣れた背中の主がこっちを見て立ち止まっていた。
こんな時間に祐希くんが一人で校舎内を歩いてるのは珍しいような気がする。
今日は遅いんだねって言えば、応援団の練習が今日から始まったんだと教えてくれた。
それから今から茶道室に居るであろう悠太くんを迎えにいくことも。
「そういえば出るんだったね、応援団」
「まぁ成り行きで……っていうか千鶴のせいで」
「橘くんか。なんか凄く意外だったもん、祐希くんが応援団やるって聞いて」
「嫌ですよ、そりゃあもう、めちゃくちゃ」
「私は楽しみだけどなぁ」
応援団をする祐希くんを、想像するだけで楽しみだと思った。
黙り込んだ祐希くんがはよっぽどやりたくなかったんだろうなって思ったけど、きっと女の子たちは皆楽しみにしてるに違いない。
「むむむさんは何してたんですかこんな時間まで」
「私は先生の手伝いだよ」
「手伝い…優しいんですね」
「…そんなことないよ、私部活とかしてなくてどうせ暇だったから」
祐希くんと二人でならんで歩くのは、やっぱり少し不思議な感覚。
緊張するとか居心地が悪いとかそんなんじゃなくて、不思議なんだ。
そうやって歩いてると、茶道室への別れの廊下。
「明日も頑張ってね」
ペコッと頭を下げてくれた祐希くんに小さく手を振って、私は下駄箱まで真っ直ぐに歩いた。
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