修学旅行も最後の日。
今日は少しだけお寺を見たり買い物をして、それから新幹線で東京に帰る。
「あいつらどこ行っても賑やかだね」
「ほんとだ」
「ちょっとからかってくるわ」
お土産屋さんでわいわい騒ぐ塚原くんたちを見付ける。
岬ちゃんは悪戯っぽく笑うと、みんなの場所までちょっかいをかけに行った。
ぽかぽか陽気。
「祐希くん」
石の上にゴロンと転がった祐希くんが、腕に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
私に気付くとのそっと起き上がり、どうぞって私の座る場所を空けてくれた。
遠慮なく隣に座る。
「…?」
「葉っぱだよ」
「……どうも」
寝っ転がっていたせいか、お決まりのカーディガンには砂や枯れ葉が付きまとっている。
それを手で払うと、祐希くんはなにも言わずに目の前の賑やかな光景に目を向けた。
なんとなく、私も同じようにそうする。
ぽかぽか、暖かい陽気が眠気を誘い、小さなあくびを隠すように口元に手を持ってくる。
「むむむさんは」
話し掛けられて、あくびを堪えていたのがバレたのかと一瞬びっくりして、恥ずかしくなる。
だけど祐希くんの視線は相変わらず目の前のみんな。
一人で焦ったことが恥ずかしくて私は誤魔化すように「何?」と返す。
「昨日はどこに行ってたんですか」
「昨日?…は、新京極でいっぱい買い物してきたよ」
何も言わない祐希くんに、今度は私が同じ質問を返す。
嵐山に行ってきました、と、そう言う祐希くんの雰囲気がほんの少しだけ、いつもと違ったようなそんな気がする。
些細な変化なんて分からないけど。
なんとなく、そんな気がした。
「お土産はたくさん買えましたか」
「うん、いっぱい」
「美味しいものは食べましたか」
「あ、京都のスイーツとか…は、食べてないかな」
「修学旅行、楽しかったですか」
「うん、楽しかったよ。…………なんか珍しいね、祐希くんからこんなに質問されるなんて」
少しだけ笑った私に、祐希くんは相変わらず視線を向けないまま。
ただ少し、間をあけて―――…
「なんとなく、知りたかっただけです」
そう、呟いた。
それがどういう意味なのかよく分からなかったけど、嬉しいような恥ずかしいような。
少しくらい私に興味持ってくれてるのかなぁと思うと、照れ臭いかも、ってそんな気持ちになる。
「あれ、春ちゃんは?」
みんながお店から出てくる。
あれどうしたのゆっきー、橘くんのその言葉に祐希くんを見れば、指が隠れるくらいまで伸ばしたカーディガンの裾で口元を押さえている。
「そろそろ行こうよ」
岬ちゃんの言葉に私と祐希くんはゆっくりと立ち上がり、スカートに付いた砂を払って集合場所まで少し急いだ。
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