東先生に言われたことを考えながら帰った。
明日でも遅くないと思うよって、その言葉を信じてみようって思ってまたお母さんに手伝って貰ってマフィンを作った。(ブラウニーは材料が足りなくて断念)



「あ、れ。またくれるの?」

「うん。…昨日ね、結局渡せなかったから……今日渡せたら良いなって」

「そっか、うん。頑張れ!」



ガシガシッと私の頭を撫でた。
頑張ろうって思って、悠太くんの様子をチラチラ見つめてはタイミングをはかってみるんだけど、うまくいかなくて。
気付いたらいなくなっちゃうし。

…結局放課後だし。



「もうむー!早く渡してきなさい!」

「でっ…でも居なくない…?」

「弟んとこ行ったらいるかもしれないでしょ、早くしないとまた帰っちゃうよ」



背中を押してくれて、私は紙袋を握り締めて隣の教室に向かった。
そこには、放課後だからもうあんまり生徒は残っていなくて、角の方に3人を見付けた。
塚原くんと橘くんと祐希くんの3人で、残念ながら悠太くんはいなかったけど。
挙動不審になりながらも教室に入って、3人のところに歩み寄る。



「おっむむむじゃんっ!」

「めずらしいな…」

「昨日のあれちょー美味かったぜ!」

「あ、ありがとうあの、」



袋から出したマフィンを祐希くんに差し出した。
びっくりしたように皆の動きが固まったけど、祐希くんはそっと受け取ってくれた。



「祐希くんに昨日、渡せなかったから」

「えー!いいなゆっきー、オレにもないのー?」

「…図々しいんだよおめえは」

「何個か余分はあるんだけど…いる?」

「えっ!まじで!」



キラキラした目で待っている様子の橘くんに、余分に持ってきた分を渡そうとする。
紙袋からマフィンを取り出そうとする、私の手を掴むようにもう一つの手が制止した。
手の主は祐希くんで。



「千鶴も要も昨日貰ったんでしょ」

「え…ゆっきー嫉妬!?」

「違いますから。そんなの不公平じゃん」



いいよあげなくて、って手が下ろされる。
それから悠太くんの場所を聞くと、どうやら今日は部活に行っているらしくて。
…タイミング悪いなぁ。
そんな事を思いながらじゃあありがとうってお礼だけ行って、教室に戻ろうかなって内心溜め息。



「あれだったら祐希、お前悠太に渡してやれば?」

「えぇ?でもさ、こういうのって自分で渡したいもんなんじゃないの?」

「悠太本人がいねぇんだから仕方ねぇだろ。な、どうする?」

「…じゃあお願いしてもいい?」



祐希くんは頷いて、私の手からもう一つのマフィンを受け取ってくれた。
直接、じゃないけど渡せたんだから、去年の私よりもずっといい。
その後すれ違った東先生に「一応だけど渡しました」って報告すると、先生はよかったねと嬉しそうに笑った。


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