クリスマスイブにも関わらず、夜からお父さんが仕事だから皆が揃ってる間にケーキを食べた。
明日がクリスマスだけど、世間は何だかイブの方が盛り上がってる気がする。
夕方から暇になった私はまた出掛けることにした。
今年はプレゼントが無かったからって変わりにお小遣いをもらって、今はお財布もほくほく。
好きなもの買いなさいって、あんまり欲しいものもないんだけど。
商店街を歩く。
みんな家族連れだったり恋人同士だったり、一人で歩いてるのはサラリーマンか私くらいで。
寂しいなぁ…って、ちょっと感傷に浸りながら目的もなく練り歩いた。
「あ……むむむさん?」
「……東先生!こんばんは」
「ボクもいるよ!」
「えっと…あきら、さん?こんばんは」
「こんばんは!」
お昼から二度目の再会。
だけど二人共、お昼のスーツ姿から私服に変わっている。(東先生の私服とか、レアだ!)
「ちょうど良かった…むむむさん、塚原くんの家知ってる?」
「塚原くん…知ってますけど」
「これ忘れていったみたいで、届けたいんだけど場所が分からなくて…」
「あ、それなら案内しますよ」
「えー悪いよこーちゃん、今から約束か何かあるんじゃないの?」
「いや…特に予定はないから大丈夫ですよ」
そうなんだ寂しいんだね、ってそうなんですけど…。
塚原くんの家は、前に雨の日に送ってもらったから一応知ってる。
私の方が家は遠かったんだけど、塚原くんはわざわざ私の家まで送ってくれた。
「塚原くんと予定はないの?」
「塚原くん、ですか?」
「うん、だって付き合ってるって…」
「あの子と付き合ってるの?さっき誰もいないって言ってたのに」
「あの、それは…」
何となくみんなが忘れ始めていたであろう噂を、まだ引っ張っている人が居たなんて思ってなくて。
予想外の質問にそれを訂正。
なんだつまんない、ってあきらさんが口を尖らせて言った。
東先生は何だか苦笑い。
「ここです、塚原くんの家」
話してる間に着いて、あきらさんがチャイムを鳴らした。
私はどうしていいのか分からなくて取り敢えず東先生たちの後ろに着いていく。
…入っていいのかなって迷ってると、先生がドアを開けて待っててくれたから遠慮がちに足を踏み入れた。(なんか落ち着かないな…)
「はい」
ほんとに仲良しだなって思ったのは、塚原くんの家なのに出迎えてくれたのがあの5人だったから。
先生がレンタルの袋を差し出すと、みんな嬉しそうに中身を確認している。
「あっありがとうございますっ!でもなんで先生これがボクたちのって…」
「え?なんでって…みんなのくれたプリクラに写ってたから…」
それから塚原くん以外のみんなにサンタさんって呼ばれながら抱き付かれる先生。
こーちゃん人気者だね、って笑ったあきらさんに私もつられて笑い、頷いて返した。
「東先生もちょっとあがってってくださいよっ、むむむさんもほらっ!」
「え、あの…でも…」
「悪いよみんなで楽しんでるとこ…」
「いえいえ今日はバタバタしててこれからやっとって感じなので…っていうかよく分かりましたねここが」
「ああうん、ついさっきたまたま会って、むむむさんに案内してもらってきたから」
「だからむむむさんも一緒なんですか!てっきり東先生とデキちゃってんのかと…」
「違うからね…」
ちゃんと否定をしつつ、私もリビングまで案内してもらって先生たちと一緒にソファーに座らせてもらう。(ふかふか!)
来年のクリスマスの話もしてて、ずっと一緒にいるんだろうなって思うとちょっと羨ましい。
私にはそんな約束が出来る友達、岬ちゃんくらいしか思い浮かばなかった。
みんなはコーヒーを入れてくれるみたいで、キッチンで楽しそうにしてる。
「みんなのんきだなあ、来年の今ごろって受験まっさかりじゃなかったっけ」
「べんきょーしなさいべんきょー」
「なんだえらそうに、あきらめちゃくちゃ遊んでたじゃんか」
「えーそうだったっけー?むーちゃんはちゃんと勉強しなきゃだめだよ」
「そうなんですけどね…」
「今の感じなら全然心配いらないと思うけどね」
あきらさんが私を下の名前で呼んでて、東先生に聞いたのかなって思いながらそんな話をする。
自分も来年は受験生なんだなぁって思うけど、イマイチ実感が湧かなくて考えられなかった。
「先生ってコーヒーブラックですかー?」
「あ、どっちでもいいよ」
「あーちなみにボクはココアね〜」
「ちなみにじゃねえよお前はそういうこと作ったあとに言うなっつの!」
「むむむさんミルク入れますかー?」
「あ、はい、お願いします」
まさかクリスマスイブを塚原くんの家で過ごすとは思わなくて、やっぱり不思議な気分だったけど。
ミルクたっぷりのコーヒーと一緒に並んだマドレーヌが、私の胸をほんの少しだけ弾ませた。
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