午後はみんな外での遊び。
男の子は私にべったりで、嬉しいけど他の子から不満が洩れてちょっと困っちゃう感じだったり。



「お姉ちゃん砂場で遊ぼう?」

「うん、遊ぼっか」



これまた私に懐いてくれてる女の子が私を誘ってくれる。
男の子も付いてきて、三人で砂場遊び。
スカートは汚れちゃうかもしれないけどジャージで来なかった私が悪いんだし、取り敢えずパンツが見えないように足の間に挟み込む。
トンネルやろうっていう提案に、まずは大きなお山作り。



「おねえちゃんとあのお兄ちゃんは“こいびとどうし”なの?」

「あはは違うよー、ただのお友達です」

「おまえなんか相手にされねーんだろ!どーせ!」

「もうっ!なんでそんなことばっかりいうの!」

「喧嘩はしないで、ね。ほら、山ができたからトンネルを掘りましょう!」



こんな歳の子たちと、まさかこんな話になるとは思ってなかった。
話を逸らそうと山のふもとをちょっとずつ掘りすすめていく。



「そうね、まずはチャンスをつくっていかないとだめね!」

「……」

「わたしお兄ちゃんよんでくる!」

「…ええ!?や、お兄ちゃん他の子たちと遊んでるからさ…」

「きょうりょくしてあげるって言ったもの!」



意気込んで走っていく姿を呼び止めるものの、聞く耳持たず。
ほんとに今の子はなんでこんなに…と、穴を掘るのを止めて山をどんどん大きくしていく。
黙り込んでしまった男の子に声をかけようとすると、女の子は本当に悠太くんを引っ張ってきた。



「…ご…ごめんね……」

「別に謝らなくても…」



女の子の手は山を作っている時点で泥だらけになっていたけど、握られている悠太くんの手も同じように泥んこ。
それから四人でトンネルを掘り始める。



「あ…つながった」

「おれも!」

「これおねえちゃんの手?」

「うーん?私の手はこれだよ」

「お兄ちゃんは?」

「お兄ちゃんの手はもみくちゃです」



繋がった場所では、四つの手がお互いを探ろうともみくちゃになってる。
小さな手が私の手を掴み、女の子を見ればにっこり笑いながらきゅっと握り返してくれる。
今度はさっきと違う大きな手が、私の手をゆるっと握った。



「これむむむさん?」

「あ…うん私」



ゆるっと握り返すと、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
隣で嬉しそうに笑う女の子はスッと手を抜き、私もそうしようとしたとき、山は潰される。
男の子が、立ち上がって悠太くんをにらみつけて、私と悠太くんの手ごと山を踏み潰していた。
走り去っていく男の子。
怒る女の子と、手を握ったまま砂に埋もれた手を救出してくれる悠太くん。



「……オレ相当嫌われてるみたいですね」

「…私行ってくるね、」



悠太くんは私の手の砂を払ってくれて、嬉しいはずなのに今はそんなんじゃなくて。
男の子を追い掛けると、幼稚園の裏側でしゃがみこんでた。



「あの…大丈夫?ごめんね?」



何て声をかけていいのかわからないまま、そうやって同じように隣にしゃがみこんだ。

…何て言えば良いのかな。
…何て声をかけたらいいのかな。
わからないから「どうしたの大丈夫?」って声を掛けて手を伸ばすと、その手をぺしっと払われて叫ばれる。



「こどもあつかいすんな!」



ああもうわかんない。
こんなときどうしたらいいの。
…考えたって分からなくて。
思ったことをそのまま伝える。



「だって子供だもん」



泥だらけの手の土を払うみたいに手をこすり合わせながら、どうしようって言葉を考える。
泣き出した男の子の頭を撫でるにも手の泥が邪魔をして、何か言おうと思ったけどなにも浮かばなくて、ただ並んで居るだけ。
非力だなぁ私…。



「さっ、そろそろ戻らないとみんな心配しちゃうよ」

「……」

「それからお兄ちゃんに謝ろうね」



手を繋いで身体を無理やり起こすと、意外とすんなり従ってくれてホッとした。
もうみんな帰りの支度をしているみたいで、かおり先生が私たちを見付けて安心したみたいに笑顔を浮かべた。
事情は悠太くんが説明してくれたみたいで、怒られることはなかった。
並んで手を洗う。
戻ったときには私以外の人はもう帰る準備してて、私も慌てて支度をした。

結局男の子は悠太くんには謝れずに居たようだけど、物陰から私たちを覗き込む姿が見えて何だか安心した。



「何してたのー?」

「…ナイショ」



5人と分かれて、私と岬ちゃんは別の道を歩いた。
いろんな事があって疲れたけど、いろんな気持ちを知って、心はちゃんとあたたかい。
ひだまり幼稚園に行って良かったと思って、誘ってくれた祐希くんに感謝した。


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