私たち青海人は“空の戦い”に着いていけない、ガン・フォールさんはそう言う。その理由を教えてくれる為に今は船の真ん中に貝を置いた大きな酒樽と、上半身ほどあるカナヅチを持ったサンジが立っている。サンジにその酒樽をおもいっきり叩くように命じ、サンジも“甲板に穴を空けるくらいの気持ち”でそれを遂行。文字通り力一杯振り下ろされたカナヅチに身体を強張らせるが、想像していた衝撃は何時になっても訪れない。



「まるで貝に衝撃を吸い込まれたみてェに…」



私から見えるサンジの背中は少し丸まって、顎に手をやり不思議そうに樽を眺めている。



「――では貝の穴を空樽に向け、裏の殻頂を押してみよ」



しゃがみ込み、ガン・フォールさんに言われた通りに手を動かす。するとその瞬間、ボンッ!!!という凄まじい爆発音と共に痛いくらいの強風と木片が身体に襲い掛かってきた。それと同時に「うおォっ」と激しく船が揺れるような衝撃も感じる。薄らと目を開けそちらを見ると、頭を押さえて私と同じように壁に背を預けているサンジがいた。



「それが“衝撃貝”。与えた衝撃を吸収し、自在に放出する。本来手の平に手袋やバンテージで固定して使用するのだ。正確にヒットすれば威力は並の人間を死に至らせる力を持つ」



しんと静まり返る船上に響くガン・フォールさんの声。彼は言葉を休める事なく続け、“貝”と“戦い”についてを私たちに話してくれた。“使う人次第で善にも悪にもなる”のだと。
樽の木片を片付け始めるサンジの隣に並び、私も彼を手伝う。素手だと危ないからと彼が使っていたホウキと塵取りを渡してくれる。手を動かしながらガン・フォールさんの声に耳を澄ました。



「例えば………料理をあたためる“熱貝”でさえ槍に仕込めば自在に高熱を発する“熱の槍”と化す。例えば…火を貯える“炎貝”…鳥の口内に仕込めば世にも珍しい“炎を吐く鳥”を生む」



……それ、は。
息を呑んでガン・フォールさんを凝視すると、彼は鋭い視線を私に向けてゆっくりと頷いた。まだ治り切ってはいない右腕が疼くような気がして、思わず左手でキュッと握った。
脳裏を横切る“あの時”の記憶。燃やされ、焼かれ、壊されていくメリー号。刺され、傷つけられていくチョッパー。…まるで悪夢のような光景に、血の気が引き鼓動が速まる。



「じゃあよ……あのおれ達の動きを先読みするマントラってのにも何か理由が?」



気付いてくれたのかサンジはそっと私の頭に手を置き、話題を変えてくれる。ほんの少し安心したけど、蘇る記憶にいるのは不甲斐ない自分ばかりでまた気持ちが落ちていく。



「“心網”とは“聞く力”だと言われている…………何やら人間は生きているだけで体から声を発しているらしいのだ」

「声?」

「うむ…それを聞く事で相手の次の動きもわかるという。さらに鍛えるとゆり広域まで声を聞けるようになる…神官共は“神の島”全域――エネルはこの国全域までその力が及ぶ。あの力ばかりは得体が知れぬ…」



眉間のシワをぐぐっと寄せ、何とも言えない表情で遠くを見やった。エネルと呼ばれる神は、全てを支配している。人を動かし人を傷付け、自分が偉いのだと誇示し、きっと世界を嘲笑って見ているのだ。
…一体なにが、楽しいのだろう。左手に力が入り、右腕に痛みが走る。悔しくて噛み締めた唇も、沸き上がる色んな感情も、身体や心をどんどん痛めるだけ。ツンと上り詰める刺激を耐えるように上を向けば、サンジが眉間にシワを寄せて私を見ていた。伸びてきた手が、私の頭にそっと触れようとした、



「………っ、!」

「サンジ君!!!」

「サンジー!!!ギャ〜!!!ギャ〜!!!」



――その瞬間、真っ黒になったサンジがドサリと私の前に崩れ落ちた。


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