真っ暗な空間。ああこれはまたあの夢だ、と理解するのに時間はかからない。少し変化した事は、私がルフィの手をしっかり握っていたということ。ただ、家族や友人は今にも消えてしまいそうで、私はそれを、漠然とした不安を全身に渦巻かせながら必死で追い掛けていた。



「…っ……」

「目を覚ましたか…」



パッと開かれた自分の視界に映ったのは、鎧を身に纏っていない空の騎士だった。全身に嫌な汗を感じながら、速くなる鼓動を抑えるために何度も大きく息を吸い込む。何を思っているのか分からない騎士は、そっと手を伸ばし私の額に浮かぶ汗を拭った。



「怪我を、させてしまったな…」



眉間に寄せたシワが胸に突き刺さる。ふるふると首を横に振り大丈夫だと声を絞りだし、怠くて動きたくないと主張する身体を無理やり起こした。騎士は私の肩に手を添え、それを手伝ってくれる。
辺りはもう薄暗い。自分がかなり長い間眠っていたということはそれで分かった。



「無理をするな、出血が酷かったのだろう。…若き女性の身体に傷を残してしまうとは……」



さっきと同じように首を横に振る私を見た騎士は、私の肩を二度軽く叩き小さな声で「すまない」と呟いた。



「あそこでお前の仲間たちが騒いでいるが……行くか?」

「……行く…」



グラリと揺れる身体を騎士がまた支えてくれて立ち上がり、何気なく辺りを見回した。やけに賑やかなここはもう船の上ではなく、山の中。炎が燃え上がるそこを囲うように、オオカミやルフィたちが賑やかに踊っている。
うまく動かない足をゆっくりと踏み出すと、まず気付いてくれたのはロビンとゾロ。ゾロは立ち上がり私の元に来て、騎士が支えてくれていた腕を代わりに支えてくれる。



「あらお目覚めね…動いてもいいの?」

「迷惑をかけた…助けるつもりが…」

「何言ってる。十分さ、ありがとよ…」

「シチューがまだあるみたい、いかが?」



ゾロに支えられ、彼の隣にゆっくり腰掛ける。大丈夫か?って心配してくれる彼に頷くと、今度はルフィやチョッパーも私に気付いてくれる。チョッパーは楽しそうだった表情を一転させ、心配そうな表情で私の所まで駆け寄ってきた。それに気付いた他のみんなも心配そうな顔で私の所まで来てくれる。



「むー大丈夫なの!?」

「うん、ありがとう…大丈夫」

「お、おれ、ま…守れなかった……おれっ…」



泣きだしそうなチョッパーにびっくりして、だけど同じように私も泣きそうなった。守れなかったのは私と同じで、また迷惑かけて、それが悔しくて、辛くて悲しくて。思い出すと、鼻の奥がツンとして胸がぎゅうっと締め付けられる。



「……私、だって…何も、出来なくて……」

「そっ…そんな事ないおれ、むーに助けられた……っ!!むーがいなかったらおれ…おれあの時死んでたかもしれないっ…」



うるうると、揺らぐ瞳に私の瞳から零れるものが握り締めた自分の手に落ちる……その前に、ふわっとした真っ白なタオルがそれを吸い込んでいた。



「むーは何もしてなくなんかねェ!むーは自分を傷付けてまでチョッパーを守ったんだろ?それだけで十分さ」

「そうそう、ウソップなんかよりずっと立派よ!」

「ちょっ…ナミそれはねェだろ〜!!」



自分の弱さが浮き出ているようで。だけど皆の優しさと明るい空気が、こんな私でもいいんだって安心感を生み出し、また、泣きそうになる。
伸びてきたサンジの手がそっと私の顔を包み、優しい親指が零れそうな涙をそっと拭う。



「今シチューを持ってくる」



オオカミ達に引かれて踊りに戻っていくルフィ、ウソップ、ナミとチョッパー。シチューを持ってきてくれたサンジはゾロと反対側に腰を下ろし、踊る姿を眺めながら時折声を上げて笑う。優しい笑みを浮かべながらそれを眺めるロビンも、さり気なく肩を支えてくれているゾロも。
いつもと変わらない光景。それがじんわりと胸に染み込んでいく。


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