サンジと二人、取り敢えずメリー号に乗り込んで皆を待つことにした。
新しく作ってくれたロールケーキとミルクティを食べながら、何もなかったねなんてそんな話をする。
真っ直ぐだと思っていた道をかなり長い間歩いていたけれど、結局ぐるっと一周してきただけだったということだろう。


「帰ってきたみたいだな」

「うん、ナミの声がする」


外から聞こえてきた声はナミとウソップのもので、迎えに行くと二人は何故かやけにぼろぼろな姿だった。
何かあったのかな、ってサンジとそんな話をしながら船に乗り込んでくる二人を待った。


「ウソップってば、ほんっとに最悪!」

「ナミだってむやみやたらに攻撃してたじゃねェか!」

「アンタがところ構わず輪ゴムとか跳ばすからでしょうが!!」


喧嘩しながら戻ってきた二人にも話を聞いたが、やっぱり結局何もないまま歩いてたら戻ってきたらしい。
ぼろぼろなのはさっきも言っていた通り。
自分たちの足音に驚いたウソップが放った輪ゴムや生卵に驚いたナミが更に攻撃をする悪循環のせい、だそうだ。


「宝の1つでもあるかと思えば何にもない。水はあるけど生き物すらいないんだから」


まったく、とナミがロールケーキを口にしながら盛大にため息を漏らした。
私は擦り傷だらけのウソップの手当てをしながらそんな話を聞く。
そうすると突然ドアが開きそっちを見ると、そこにはゾロと、泣きながらゾロにしがみついているチョッパーがいた。


「…アンタよく迷わず帰ってこれたわね」

「あ?ただ真っ直ぐ歩いてただけなのに誰が迷うかよ」

「お前ならやりかねないんだよ」


チョッパーを引き剥がしてドカッと椅子に座ったゾロは、サンジが用意したお茶を飲み干した。
ゾロたちも歩いていたら辿り着いたらしい。


「何かあったのか?」

「あ?」

「チョッパー泣いてンじゃねェか」

「……あぁ、こいつは…」


と、ゾロが話始めた内容にナミがまた小さくため息を漏らした。
自分で蹴った小石に驚き、ゾロが真っ二つに切り裂いた岩の破片が頭に当たりまた驚き、慌てて逃げると壁に激突しまた驚き…だったんだと。
逃げ惑うチョッパーの姿は簡単に想像ができて、隣に座ってまだガタガタ震える彼の頭をそっと撫でた。


「ルフィはまだ帰ってきてねェのか?」

「あァ、あいつらはまだだ」

「もしかしたら何かあったのかもしれねェな」

「こんだけ時間かけて何もないなんてありえない。せめて宝の1つでも持ってこないとブッ飛ばしてやるわよ!」


ドンッと机を叩いたその瞬間、タイミング良く外からルフィの大きな声が聞こえてきた。
皆で様子を見に行くと、小さな明かりがこちらを照らしている。
そして二人が船に乗り込み、ルフィがダランと私に抱き着くようにもたれ掛かってきた。


「なーんもねェ…」


…と。
つまんねェーとかなんもねェんだよーとか、ぐだぐだと文句を言いながら私に体重を預けてくる。
彼の体重を支えられるはずもなく、サンジに叩かれて結局船の床にダラッと落ちていった。


「ロビン、本当に何もなかったの?」

「えぇ本当よ。水に沿った道をただ真っ直ぐに歩いていたらここに戻ってきたようだわ。あなたたちは?」

「みんな一緒よ」


盛大なため息を吐いたナミが、時間の無駄だったわねーなんて言う。


「さっさと船を出しましょう」


その言葉に皆が頷いて、すぐに洞窟から出た。
外は真っ白な霧に包まれていて、見えない航路をナミが誘導していってくれる。
霧を抜けるとそこは見慣れた海。
何もなかったなぁって、そっちを振り返って見えた景色に目を疑う。


「お…おい洞窟がねェぞ…」

「……どうなってんだ…!?」


霧もなければ洞窟もない。
そこには真っ青な海だけがどこまでも広がっている。
不思議な事態にみんなが海を眺め、目を凝らし、辺りを見回すのに本当に何もないのだ。


「なんだったんだろうなァ…」

「何もなかったけどな」


遠くを見やる。


「まァいいじゃねェか!確かにあったんだ、そんでその中を歩いたんだ俺たちは!」


いつの間にか元気になったルフィがそう言った。
まぁそーだなァ…なんて言いながら暫くその海を眺め、各々が自分の持ち場へと帰っていく。


「不思議な冒険だった、ってわけね」


ロビンが呟いた言葉に小さく頷いた。
サンジが私とロビンを呼ぶ声がして、私たちも船の中へと足を動かして出来立てのマカロンを口にした。


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