ボタボタと自分の右腕から流れ出る血が、生きているんだとそれを実感させる。腕を伝い、ポタポタと落ちていくそれは、みるみるうちに足下に小さい溜まりを作っていく。恐かったけど、それ以上の安心感が私の身体から力を奪っていき、その場にへたりと座り込んだ。



「だ…大丈夫、か…むー……!!」



苦しそうにそう言うチョッパーに首を縦に振ると、一先ず安心したかのように駆け寄ってきてくれた。腕から流れる血を見たチョッパーは顔をしかめて、辺りを見回している。
その視線は流れるままに騎士たちの戦いに移り、そこに留まる。凄まじい光景に傷の痛みもそれの手当てをする事も、呼吸をする事さえも忘れそうになっていた。
私もチョッパーも口を開いたまま、この世の物とは思えないような迫力の戦いに、二人から視線を外せなくなっている。二人の強さにゾクッと全身を襲う感覚に、忘れていた震えが再び戻ってくる。



「む!!?」



俊敏な動きを見せていた空の騎士の動きが一瞬、止まる。そこからピタッと動きが止まってしまった空の騎士に向けて振り上げられるそれが、



「!!!!」



ドンッという音と共に、胸に、突き刺さった。声を出すことすら出来ない恐怖。



「摩訶不思議“紐の試練”………!!!“神の島”…入るはいいが我ら4神官の険しき試練…ちょっとやそっとで破れるものと思うな!!!」



刺された場所には炎が上がり、湖に落ちていく騎士を目の前にして私を襲うのは“絶望”だった。小さく震えているチョッパーは下に空サメが居ることを口にして小さな手をぎゅっと握り締める。そして駆け出し、船の縁に手を掛けて



「空の騎士〜!!!」

「……っ、チョッパー…!!」



彼もまた湖に飛び込んだ。彼が泳げない事は知っている。助けなきゃ、助けなきゃ、と思っている間にピエールまでもが湖に沈む。もう、本当に私しか、いないんだ、と。
彼の目は、最後に残された私を捕える。薄らと浮かべた気持ち悪い笑みに、今まで忘れていた怒りが私に襲い掛かった。キッと睨み付けても、薄気味悪い笑みが増すばかり。



「どうした助けないのか?もうお前しかいないのだぞ?それとも仲間を見捨てて自分だけ助かるつもりか?」



何がそんなに楽しいのだろうか。響く笑い声が気持ち悪い。吐き気がする。
私しか居ないことはわかっている。早くしないと皆がどんどん沈んでいく事も、早くしないと事態がどんどん悪くなっていく事も分かってる。ぐらつく足を動かして、揺れる頭を我慢して立ち上がるとまた彼は可笑しそうに目を細め、私を見下す。腕から流れ落ちる血液は思っていたより大きな溜まりを作り、未だ止まることをしてくれない。こんなに血を出したのは生まれて初めてで、揺れる身体や頭もきっとこのせいだと理解した。



「……う、っ…!!」




突然、身体が宙に浮く。掴まれているのは自分の首で、呼吸が止まってしまいそうな息苦しさに口から空気を吸い込もうとするが、それすらまともに叶わない。薄れていく景色の中、身体が後ろに飛ばされる。背中に感じるのは湖に叩きつけられた痛みで、薄らと開いた目蓋の隙間から見えたのは広がる薄い赤色と、ぼやけた相手の姿。
船を守る事も、皆を助けることも、さらには些細な抵抗さえ出来なかった自分が悔しくて零れた涙は、一滴たりとも落ちることなく湖に溶けていった。


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