船が連れてこられた場所は“神の島の内陸の湖”で、そして私たちが今いる場所は“まるで生け贄の祭壇”のようだとロビンが言った。見下ろす湖には空サメがうようよと泳いでいて、身動きが取れる状況ではない。ゾロが様子を見に行ったけど、やっぱり詳しい事は分からないらしい。
湖に潜っていて水浸しのゾロ。ナミに言われてタオルを彼の元まで持っていく。



「タオル、使って」

「…ああ悪ぃな」



タオルを手渡し、みんなの会話に耳を傾ける。ゾロはタオルで濡れた体を拭き、絞った服を着直す。



「――船底がこのあり様じゃ船降ろすわけにもいかねェし、とにかく船を何とか直しとけチョッパー」

「え!?おれ!?わかった」

「直しとけって…あんた何かする気?」

「どうにかして森へ入る。とりあえずここは拠点にしといた方がいいと思うんだ。きっとルフィ達がおれ達を探しにここへ向かってる」



そう言うと辺りをキョロキョロし出すゾロ。手頃な木のツルを見付けたようで、あれがいいと呟いた。この船を出ていくらしい。ゾロだけじゃなくてロビンもナミも「行く」と言い出し、器用にツルを使って船から陸へと渡っていった。



「じゃあチョッパー、むー、船番頼むぞ!!」

「よろしくね!!」

「すぐ戻るから」



最初は乗り気じゃなかったナミも今ではゾロやロビンと並んで、どこか楽しそうに手を振っている。ロビンに言い包められて宝石を探しに行くことに喜びを感じているらしい。
船番として船に残ったのは私とチョッパー。



「ナミはゾロ達がいるから大丈夫かな。おれは怖くて行けないもんなァ」

「私だって行けないよ。行ったって迷惑かけちゃうだけだろうし」

「みんな勇気があってすげェなァ…おれもその内勇敢になれるかな……!!」

「私にしてみればチョッパーは勇敢だけど」

「え、そ…そうかな…!!」



照れたように笑ってみせるチョッパーが可愛らしくて、ちょっと笑ってしまった。よしっと気合いを入れ直したチョッパーは船の修理道具を持って来た。



「とにかくおれ達は今やれる事をやろう!」

「ん、私も手伝う」

「ああ!危険な森で船番なんて信頼されてる証拠だ……!!」

「……危険、だよねやっぱり」

「そうだ!!俺たちは2人でこの危険な場所に…………はっ………………」



頼られているんだ!と、浮き足立っていたチョッパーの足がピタッと止まる。私もつられて足を止めると、彼はゆっくり振り向いた。持っていたカナヅチや修理道具をガシャンと落とし、その表情は激しく強張って見える。



「……一番危険なのおれ達だっ!!!!」



ガタガタと震え、泣きだしそうな目で私をじっと見ている。…時すでに遅し、とでも言えばいいのだろうか。確かにチョッパーの言う通りかもしれない。戦えない私と、怖がりなチョッパー。いざという時には彼は勇敢に戦ってくれるが、今こんな表情だと何だか頼りなくて。



「だ…大丈夫だよ……きっと…」

「…きっと………!!」

「あ、ほら笛だってあるし、」



私を見上げるチョッパーに、私も恐がってちゃダメだって思って精一杯笑ってみせた。私だって怖い。だから上手く笑えてるかどうかはわからないけど、ちょっとでも恐怖心を和らげておかないと…って、そう思ったから。
それにさっき自分で言ったけど、この船には空の騎士がくれたホイッスルが残されている。誰が持っているかと相談した結果“困った人が困った時に吹く”事に落ち着き、船に置いていったのだ。私はそれを手に取り、不安を隠し切れていないチョッパーの首にかけた。



「これがあってよかった…!!これでもしもの時は“空の騎士”が助けてくれるぞっ…」

「これで安心だ」

「ああこれで……ん?あれは…」


チョッパーの視線が私を通り過ぎた場所に向いたことに気付き、何か嫌な予感がして恐る恐る彼の視線を追う。



「何だ殺していい生け贄はお前ら2人か?」



自分の顔がサァァッと青ざめていくのがわかる。その瞬間この湖には、チョッパーが拭いたホイッスルの音が響き渡っていた。


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