結局、やっぱり帰らないと頑なに決めたルフィは、サンジとウソップと共にコニスさん達の家に戻っていった。冒険の為にお弁当を準備するのと、船を直すための部品を貰いに。私たちは船に乗り込み、そんな3人の帰りを待っている。
「まったく!ルフィはむーに言えば何でも頷いてくれると思ってるんだから!」
頭に血が上っているらしく、私の隣に来てその怒りをドンドンッと船にぶつけている。ムキーッて効果音でも付きそうな感じ。
ナミが怒るのはわかる。ルフィにとっては冒険こそが海に出た目的かもしれないけど、命よりも大事だと言われるとそれには流石に頷けない。確かに空に来れた事は、凄く嬉しくてドキドキするような冒険だ。今まで何度も死という恐怖とは向かい合ってきたけど、彼らがいるから大丈夫だと割り切ってる部分もあった。
だけど今回は、いつもとは違うってナミだってきっとどこかで感じているはず。ルフィたちが強いのは重々承知しているし、敗けるとも思っていない。だけど今回は相手が“神様”だ。そう言われて怖くないわけがない。死んじゃうんじゃないかって、どこかで泣きそうな自分が、いる。
「何であんなにバカなのよ…」
はぁ、と大きな溜め息を吐いて頭を抱えるナミにまた胸が痛くなる。…敗けると思っていないのに不安だなんて、こんな矛盾、可笑しいのに。
溜め息を吐くと突然船がグラリと揺れる。この揺れを感じたのは私だけでなく、突然動き出した船に皆が慌てた様子を見せた。
「どこかへ連れてく気だおれ達を!!!おい!!!全員船から飛び降りろ!!!まだ間に合う!!!」
「だって船は!!?船持っていかれたら…」
「心配すんな!!おれが残る!!!」
「そんな!!あんた1人残ってどうなるの!!」
「……いいえそんな事もできない様にしてあるみたい…大型の空魚達がホラ…口を開けて追って来るわ………!!」
…動き出した船を止める術も、私たちがこの船から逃げる術も、もうそれはどこにもない。どこかに向かっていくこの船の中で、これから起こるであろう“それ”を待つしかないのだ。きっともう、私たちにはどうする事もできない。
「そんな心配すんな、なるようにしかならねェんだ」
ぽん、と私の頭に乗ったその手は温かくて優しくて、込み上げてくるものを出さないように必死で呑み込んだ。怖いものを怖いと言う事も、今は何だかしてはいけないようなそんな気がした。
なるようにしかならない。
……今はきっと、皆を信じるしかないんだろう。流されていく自分に諦めを感じながら、隣にゾロがいてくれて良かったとそう思った。
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