コックさんが医務室まで呼びに来てくれた。小さな船をもらったらしく、そこにはヨサクさんとルフィがもう既に乗り込んでいた。
ズラッと並んだ他のコックさんの間を通り抜けて行く。私はその隣を歩く。何か物音がした気がして振り向くと、空中に武器を振りかぶる二人の男が見えた。明らかにびびっている私を横目に、何事もなかったかのようにスタスタあるく彼。気付いたときには2人は床に倒れこんでいた。



「行こう」

「いいのか?…あいさつ」

「いいんだ」



私の手を軽く掴んで、滑らないようにと先に船に乗せてくれる。この人は行動がレディファースト、まるで紳士のよう。
壁に寄り掛かるように座る。



「おいサンジ」



船の上の方で、オーナーさんが彼、サンジさんを呼び止める。「カゼひくなよ」とその一言に、船の上が一瞬静まり返った。サンジさんの表情がどんどんかわっていく。次第に歪んでいく顔、流れ落ちる、涙。



「オーナーゼフ!!!……長い間!!!くそお世話になりました!!!この御恩は一生…!!!忘れません!!!!」



床に膝と頭をつけ、所謂“土下座”をしたままサンジさんが叫んだその声は、船上に十分過ぎる程に響き渡っていた。
何とも言えぬような、感動的な雰囲気。彼らに何があったのかは知らないけれど、胸がきゅうっと締め付けられるようなそんな気がした。



「また逢おうぜ!!!!クソ野郎ども!!!!」



サンジさんのその声を合図に、ルフィか出航の声を上げる。ゆっくり動き出す船。私の隣に座ったサンジさんがゴシゴシとシャツの裾で涙を拭き、にっこりと笑ってみせた。かわりに泣いているのは何故かヨサクさんで、感動したとひたすら涙を流し続けていた。

ルフィはこれからの事を話し始めた。キラキラしたようなワクワクしたような声で偉大なる航路、通称“グランドライン”の事を話している。……私にはそれが何なのかはサッパリ分からないけれど。



「王下“七武海”」



しちぶかい。
やっぱり、サッパリ。
簡単に言えばとにかくどうしようもなく強い人たちが七人いるっていう事らしい。政府に認められた海賊で、代わりに政府に渡るものが報酬。“闇取引”みたいなそんなものなのだろうか。
更にヨサクさんが続ける。これから向かう先“アーロンパーク”にも危険な人がいるらしい。何か話していたけど私にはわからない。だけどこれからまた危険な事が起こるのだと、私の頭はそう理解していた。



「眠いのか?」

「…ん、?や……」



ウトウト、気付いたら閉じられかけていた私の目蓋。サンジさんに声をかけられようやく気付く。ああ私きっと、凄く疲れていたんだろうなぁ。
脱いだジャケットを私にかけてくれると、ぽんぽんと二度肩に手を添えた。頭がグラグラするのが自分でもわかる。きっともう限界なんだ。



「おやすみ、お嬢さん」



閉じていく目蓋と離れていく意識の中で、目が覚めたときに再び自分のベッドにいることを願っている自分がいた。


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