絶対に足を踏み入れちゃならない場所、神の住む土地アッパーヤード。入っちゃいけないと言われて、ああダメなんだってそう思ったのは気の小さい私やウソップだけ。ルフィはニコニコしながら行く気満々で、他のみんなはそんなルフィの様子を初めから分かっていたかのように冷静に話を進めていった。貴女も食べておいたほうが良いわよ、と声をかけてくれたロビンの言葉に頷いて空島料理をお腹に詰め込む。
それから皆で船に戻る。ルフィは壊れたウェイバーを直してもらっていて、私たちはソレが終わるのを待っているところ。



「何で匍匐前進してたんだあいつら」



船の上から皆がルフィの方を見て首を傾げているけど、私には何が何だか。距離が遠いからよく見えなくて、目を細めてみるけどやっぱり見えない。



「…目ェ悪ィのか?」

「……うん、ぼやっとしか見えない…」

「怪我でもしたのか?」

「ううんそうじゃなくて、たぶんあっちにいた時の環境のせいだと思うんだけど…」

「へェ…」



物珍しそうにまじまじと私を見てるからちょっと照れ臭い。視線を逸らすとサンジは小さく笑った。
確かにこっちの世界だとテレビやパソコンや携帯電話みたいな目に悪いものは無い。自然がいっぱいで身体に良いものもいっぱい食べてるし、健康状態や肌や髪の状態もあっちに居たときより良くなった気がする。



「…………何だよ不法入国って……」

「入国料1人10億エクストルだったかしら…確かに払ってないものね」



不法入国。向こうの会話は私にはハッキリ聞こえてこなかったけど、皆の耳にはしっかりと届いているらしい。目だけじゃなくて耳もいいのは、皆がいつも周りに気を配らなきゃいけないからなのかなぁなんて事を思った。私にも危機感や警戒心がないわけじゃないけど、皆がいてくれるからって油断してる部分は否定し切れない。もっとしっかりしなきゃと気持ちを胸に固める。今更かもしれないけど、やらないよりはきっといい。
犯罪者扱いされている今、私たちが安全な観光者になりたければ入国料を10倍払えばいいと言っているらしい。10億エクストルの10倍を8人分となれば800億エクストル。1万エクストルが1ベリーらしくて、それをベリーに直すと800万ベリー。只でさえ貧乏なこの船には勿論そんなお金はない。



「ったく何なんだこの島は…」



サンジが隣で小さく呟いた。少し前まではあんなにも空島を楽しんでいたのに、それがまるで嘘みたいに今は不法入国の罪で犯罪者扱い。
やっぱりあのお婆さんの違和感は間違いじゃなかったんだって、もう何もかも悪い方向に向かっている今になってようやく気付いた。あの時この違和感を誰かに伝えていたとしたら、もしかしたら何かが変わっていたのかと思うと何だか悔しくて、後悔。何も変わってなかったかもしれないけど何かが変わっていたかもしれない。
…もう何もかも今更だ。



「またそんな顔して…今度はどうした?」

「……なんでも、」

「ない?そりゃ無しだぜ、むーちゃん」

「………私そんなに変な顔してた?」



私の疑問に彼はタバコを咥えて少しだけ考えるような素振りを見せる。傷付かないように言葉を選んでくれているのだろうか。変な顔してたってそれでいいのに、紳士な彼はそれすらもオブラートに包もうとしてくれているのかもしれない。それくらいじゃ傷付かないけど。…傷付くかもしれないけど。



「…変、な顔してるかもなァ」

「……はは、サンジに言われるとは思わなかったな」

「でもそんな顔も可愛いぜ?」



ほんとに、彼は、恥ずかしいくらいにストレートな表現をする人だ。正面切ってそんな事を言われたのは生まれて初めてで、顔に熱が集まるのが自分でよく分かる。サンジから視線を逸らすと頭に乗ってくる大きな手。隣の彼はきっと面白がってる。
顔から熱が引くのを待ちつつ、目の前でナミが盛大に誰かに向けて突っ込んでいくのが見えた。


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