雲の上で一通り遊んで今はみんなと一緒に船の中にいる。船を案内した先、今、私たちの目の前にあるのはさっきまでは遠くにあったあの滝のような雲。
「“天国の門”だと……」
そこには“HEAVEN'S GATE”と書かれた、やけに派手な門があった。小さい頃から天国は雲の上にあるということはみんなが言ってたけど、まさかこんな風に天国に来るなんて思っても見なかった。本当に不思議な気分。死んでもいないのに、こうやって天国に来ちゃうなんて。…多分、死んでないはずなんだけど。
不吉な思考を振り払っているとウソップが誰かを見つけたようで、船もゆっくりそっちに向かっていく。
「観光かい?それとも…戦争かい?どっちでも構わない。上層に行くんなら入国料1人10億エクストルおいていきなさい。それが“法律”」
ウソップが見付けたのは門番の人だろうか。ヨボヨボのお婆ちゃんみたいな人が写真を撮りながら私たちに入国料を置いていけと言う。背中には羽も生えている。この人がもし天使だとするならば、私達が勝手に描いていた天使像とは掛け離れている。
「……あのお金…もし…もしなかったら…………?」
「通っていいよ」
「いいのかよっ!!!」
お金が無くても通って良いんだ…と、ほんの少し安心。お金の管理はナミがしてるはずだけど、きって10億エクストルって大金なんじゃないだろうか。億って付くくらいだし。
そんな事を考えながら船はまたゆっくりと進む。じっと私たちを見ていたままのお婆さんがほんの少し気になっていると、薄らと口元を笑みを浮かべたのが見えた。
「――それに、“通らなくても”……いいよ。」
「…?」
「あたしは門番でもなければ衛兵でもない。お前達の意志を聞くだけ」
「じゃあ行くぞおれ達は空島に!!金はねェけど通るぞばあさん!!!」
「そうかい。8人でいいんだね」
8人でいい。良かったと皆が安心していた、けど、背中を向けたお婆さんはまた不気味に薄ら笑いを浮かべている。怪しい、それに、一気に不安が押し寄せてくる。
ガタガタと船が揺れる。
「うおおお〜!!!」
「やっほー!!!」
いやな予感が胸を覆っていくけど、皆は何も感じていないらしい。じゃあ大丈夫か…なんて、そんなふうには思えないけど。
超特急エビと呼ばれた乗り物に運ばれながら、さらに上へ向けて船は雲を登っていく。
「どうなってんだこりゃ……!!!」
「雲が帯状になってまるで川みてェだ…!!」
超特急エビに運ばれて、その名の通り超特急で登っていくと、あっという間に出口が見える。薄暗い雲に記されているのは“GODLAND SKYPIEA”という文字。
「出口じゃねェよ!!入口だ!!!」
その勢いのまま雲の上に飛び出した。揺れる、浮く、ぶつかる、と今まで何度も経験してきたことがまた私たちの体に起こる。
「…っと、飛んでくなよ」
勢いに絶え切れず放り出されそうになった私の腕を、サンジが掴んでくれていたから何とか無事に船にいられた。みんなもちゃんと船にいる。自分の足腰の弱さに参りながら、グラグラ揺れていた私の視界がようやく落ち着いてきた。
「島だ…!!!」
「“空島”だ〜!!!!」
真っ白な雲の上には木や橋や建物が見える。ここはただの雲の上なんかじゃない。まさに“空にある島”なのだ。
目の前に広がる景色に目を奪われていた。だからさっきまで感じていた予感なんて、この時にはもう既に私の頭には無くなっていた。
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