駆け寄ると、みんな苦しそうに肩で息をしている。そんなに強い相手なのだろうかと不安が広がっていく。



「そこまでだァ!!!!」



今度は何だ、何が来たんだ、なんて怖くなると薄ら喉が震えてくる。遠くから飛んでくるその人は一撃でさっきの人を倒してしまう。混乱したまま唖然としていると、その人は自らを“空の騎士”だと名乗った。その格好は確かに騎士という言葉にピッタリ。



「いやまったく…腑甲斐ねェ」

「なんか体が……うまく動かねェ」

「………きっと空気が薄いせいね……」

「…………………?」

「ああ……そう言われてみれば………………」



――忘れかけていたけど、ここは空なのだ。上に来れば来るだけ、地上に比べて空気が薄いことは知ってる。だからずっと、どこか息苦しさを感じていたんだ。倒れこんでるルフィの額に付いた血を袖で拭えば、悪ィな、といつもの笑顔で私に言う。
空の騎士と名乗る人は私たちの事を青海人――雲の下に住む者――だと言う。ここはどうやら思っていたよりもずっと高い場所にあるらしい。地上から7000mもの場所に私はいるのだ。7000mといえば、世界一と言われるエベレストくらいだろうか。詳しい高さは知らないけれど。私が過去に見たことのある富士山だって3000mくらいだから……。
状況を理解し始めると、どこか息苦しさが増してきたような気がする。“通常の青海人では体が持たない”と、そんな場所に普通に居られる皆はやっぱり普通じゃないのだろう。改めて納得。
それにしても。これ程の空気の薄さは私には辛い。普通の人間なんだなぁ…なんて思考で、ルフィの隣に座り込んだ。大丈夫か?と私の顔を覗き込む彼に頷くと、眉間にしわを寄せて背中を擦ってくれる。彼なりの優しさなんだろう。
空の騎士は「1ホイッスルを500万エクストルで売る」と、言うが意味が分かるはずもなく、聞いたことのない単位にみんなポカンとしたまま彼を見つめる。円とベリーは知っているが、エクストルなんて初めて聞いた。そんな様子に何かに気付いた騎士は、額に汗をにじませて言葉を繋げる。



「おぬしら………ハイウエストの頂からここへ来たんじゃないのか?ならば一つ二つ通っただろう」

「だから何言ってんだおっさん」

「ちょっと待って!!他にもこの“空の海”へ来る方法があったの!?…それに島が一つ二つって…空島はいくつもあるもんなの?」

「……何と!!あのバケモノ海流に乗ってここへ!!?……まだそんな度胸の持主がおったか」



整理していくと、この空島に来る方法はあれ以外にまだあったらしい。ナミはルフィの胸ぐらを掴んでぶんぶんと揺さ振っている。だけど…私たちがここへ来た方法は間違いじゃなかったのかもしれない。騎士によると他の方法だと“100人いれば数人だけがここに到達”し、私たちの方法だと“全員死ぬか全員到達するか”らしい。一か八かの方法だけど、私たちはこうして全員無事にここにいる。だからきっと、結果オーライ。
空の騎士は感心したように笛を置いていく。1ホイッスルプレゼントだ、とそう呟き立ち上がり、私たちに背を向け歩きだす。



「待って!!名前もまだ…」

「我が名は“空の騎士”ガン・フォール!!!そして相棒のピエール!!!」



空の騎士、もといガン・フォールさんは相棒だというピエールに跨る。逆光のシルエットは正に“ペガサスに跨る騎士”そのもので思わず目を奪われる。…が、やっぱり何処か真面目に格好イイとはいかず。ペガサスの様に見えたピエールの本当の姿に皆が思う事は“微妙”という事だろう。皆が言葉を失っている。



「でもなんか…可愛いね」

「いや…いくらむーちゃんの意見でも…」

「……それはねェな」

「お前たまに面白い事言うよなー」

「あれは可愛いとは言わないわよ?」



呆れたような声や笑い声が聞こえる中、空の騎士は雲の向こうへと去っていった。


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