昇っていく、先は、海。
「ケホ!!……ハァハァ…!!」
「ゴホ!!!……グハ…ハァ…ハァ…」
「ゲー………ゲー…エホ!!」
「………!!まいった…何が起きたんだ…全員いるか……?フー…」
「ハァ……大丈夫か?…ゲホッ……」
大きく頷いて、胸いっぱいに息を吸い込む。それを何度も繰り返してようやく、ほんの少しだけ落ち着いてくる。
空に飛び込んで、雲に突っ込んだ瞬間にそこにあったのは“水”だった。上手く対応出来なかった私の口をサンジが咄嗟に塞いでくれていたようで、なんとか私も皆と一緒に無事でいられたのだ。力が入らずにサンジにもたれかかっていると、彼は優しく背中を擦ってくれる。
「おい!!!おいみんな見てみろよ!!!船の外っ!!!」
「…………何だ!!?ここは!!!真っっっ白っ!!!」
「雲…!?」
「雲の上……!!?何で乗ってんの……!!?」
「そりゃ乗るだろ雲だもん」
「イヤ乗れねェよっ!!!」
一面、見渡す限りどこまでも真っ白な景色が続いている。ルフィのボケっぷりに何時も通りのツッコミが入る。
――ここは雲の上なのだろうか。
もしそうならばまるで、本当に、絵本の世界に来たみたいで胸のドキドキが止まらなかった。なんて、何て不思議な場所なんだろう。
「――つまりここが“空の海”ってわけね」
空の海。
何だか少し息苦しいような気はしていたけど、それよりもっと、胸が高鳴っていた。それと同時によく分からない感情に襲われ、胸がいっぱいになって泣きそうになってた。
ウソップが飛び込み、底があるのかとロビンが言い、ルフィが腕をのばして落ちかけてたウソップを引っ張り上げ、おまけに大きなタコまでついてきてゾロが斬ったかと思えばまるで風船のように弾ける。
もう何が起きても、起こることすべてに幸せを感じてた。ここは空の上で、私の世界の人ならば誰もが一度は来たいと思った事があるであろう場所。そこに私はいる。
どうしてだろう、本当に泣きそうになってた。もう悩まなくていいって、こっちで皆と一緒にいられるんだって思うだけで、色んな感情が溢れそうになる。もう本当に、幸せすぎて胸が一杯になるなんて生まれて初めての経験だった。こんなに涙腺が緩くなったのも、きっと全部そのせいなんだろう。
そんな感情に浸っていると、すぐ隣からガチャンという音がした。見てみると、チョッパーがえらく焦ったような引きつったような表情で言葉を探している。
「そこから牛が四角く雲を走ってこっちに来るから……大変だ〜!!!」
「わかんねェ落ち着け!!!」
チョッパーの言うことは一体何が何だか、サッパリわからなかったけれど。指差すほうに視線を向けると、凄まじい速さで走ってくる“何か”がこっちに向かってきていた。と、そんな事を考えている間にメリー号に乗り込んできていた。あれは…チョッパーの言ってた牛、か。確かに頭から牛のような角が生えている。息を呑んで身を退くと、ナミが眉間にシワを寄せて私の腕を引いてくれた。
「排除する…」
そう呟いたと思えば戦闘体勢に入ったサンジ、ゾロ、ルフィを順に張り倒していく。絶対勝つだろうと、どこかで確信していた私とナミは思わず身体に力が入る。3人は相手に攻撃を仕掛ける間もなく、船の上に力なく横たわっていた。
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