サウスバードで遊ぶルフィとウソップとチョッパー。この三人が集まると、何をしてても遊びに変わってしまう不思議。その笑い声が緊迫した気持ちを和ませてくれているのも確か。
「なぁむー」
突然ルフィが真剣な顔で私の方を振り向いた。皆なんだなんだって顔で私とルフィを見比べる。私も分からないからただルフィを見るが、彼の表情は真剣そのものだった。
「帰りたいのか?」
核心を突いた質問に皆がギョッとルフィを見て、何聞いてんのよ!なんて焦ったようにルフィを止めに入る。うるせぇ!と振り払えばルフィはズカズカと私に近付いてきて、至近距離に彼の真面目な顔がある。
「…まだ、わからない」
声のトーンが下がっていく。皆の表情も曇っていく。…みんな気まずいんだろうな、なんてこんな時にまるで他人事かのように考えてしまう自分に無性に腹が立った。
ルフィはムッとした表情で私の両肩を掴んだ。
「ここにいろ!俺らを選べ!」
「ちょっ…分かんないって言ってるのに、そんな簡単に決められるわけないでしょ!」
「そうだぜルフィ、気持ちはわかるが…」
「うるせェ!!!」
私の肩を掴むルフィの手に力が入るのがわかった。痛い、だけど、そうやって言ってくれることが嬉しくて、また揺れる気持ち。
「なら選ばなくていい!俺らと一緒にいろ!」
「そんな滅茶苦茶な…、」
―――選ばなくていい。
「もうルフィいい加減に、」
「……いい…のかな」
ルフィの表情をじっと眺める。みんなもシンとしたまま、同じように私を眺めている。
「…選べないの……帰れないのは怖い、だけど………皆と一緒にいたい……」
なにが言いたいのかわからない、何でこんなこと伝えているのかさえ分からない。
「…いつかは、帰りたい……でも今は………ここにいたい…っ……」
それは私の本当の気持ちで、何でか分からないけど鼻がツンとして、ワケも分からず泣きそうになった。
ずっと考えても答えは出なくて、ワガママ過ぎる自分が嫌になった。なんでこんな所に来ちゃったんだろうって、なんでちょっと楽しんじゃってるんだろうって。最初は嫌だったはずなのに、今はそんな気持ちどこにもない。向こうで経験出来ないこと、全部こっちで経験しているような気がしてる。向こうの世界より、人間らしく居られるような気がして仕方がなかった。
そんな自分に罪悪感。
家族も友達も、皆の顔を忘れかけているのに、こっちに居たいだなんて。
「だったら今はここに居ろ!いつかむーが帰る日まで、責任持ってお前を守る!!」
「〜っ……むーを傷つける奴は私が許さないんだから!!」
「ウソップ様に任せれば怖いもんなんてねェ!!!」
「どんな怪我したっておれが綺麗に治してやるからな!!」
「帰りたくないって思っちまうくらい美味いもん、好きなだけ食わせてやる」
「ま…面倒見てやるよ」
ナミがぎゅうっと私に抱き付いてきてくれる。よっし行くぞ!と船はまた前に進む。両隣の船からも啜り泣く声が聞こえてきて、泣きながら笑ってしまう。変な気持ちでいっぱい。
「好い仲間ね……」
ロビンのきれいな手がそっと私の髪に触れる。
やっぱり私はここにいたいんだと思った。いつか帰るけど今はここにいる、なんて、そんなのただの私のワガママだって分かってる。願ったところで、決めたところでその通りになるなんてわからないけど、だけど今はそうしていたい。
「宴の準備だ!!」
「うめェもんいっぱい作ってやるから待ってろ」
「あんたたち馬鹿な事言わないの!嬉しいけど…嬉しいけどっ!!」
ナミが更に私を抱き締めてくれた。
いつかは帰れると信じてる。もう少し、皆と居られると信じてる。だからもっと、もっともっと頑張ることに決めた。泣きたくないし負けたくない。今日も明日も、ずっと笑っていたいから。
ワガママでも構わない。私はただ、どちらの手も離したくないって、それだけ。
「今なら空島でもどこでも行ける気がするわ!」
だから私はどちらの手も離さない。今の私には、怖いものなんて何もなかった。
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