無事にサウスバードを捕まえることができた。クリケットさん達の所に戻ると、目の前に広がる光景に浮き足立っていた気持ちが一気に沈む。



「ひし形のおっさん!!!」

「マシラ!!!」

「ショウジョウ!!!」


「見ろ!!ゴーイングメリー号が!!!何てこった!!誰だこんな事しやがったのは!!!畜生ォ!!誰だァ!!!」



皆、何もかもがボロボロだった。クリケットさんたちも、クリケットさんたちの家も、私たちの船も、全てが見るも無残な姿になってしまっていた。怖くなって動けなくなった私はその場に立ち尽くすしかできなくて。そんな私の傍に立ってくれたのはゾロだった。片手に捕まえたサウスバードを持ちながら、ただただその様子を眺めている。…一体、どんな思いで見つめているのだろうか。



「ルフィ!!!金塊が…奪られてる…………!!!」



壁が崩され中が丸見えの家。そこから慌てて出て来たナミが発した言葉に、皆の表情が一瞬で強張った。



「……ああ…………ああ…いいんだ…そんなのはよ、忘れろ、これは……それよりお前ら…」

「そんなのはって何だよ!!!おやっさん10年も体イカレるまで海に潜り続けてやっと見つけた黄金じゃねェか!!!」

「黙れ…いいんだ……これァおれ達の問題だ………聞け」



血だらけのクリケットさんが苦しそうに声を出す。ウソップが彼に言った事は最もで、ここにいる皆が思っている事だと思う。“潜り続けてやっと見つけた黄金”という事を私は知らなかったけど、それを知ると尚更、胸が痛いくらいに締め付けられた。



「猿山連合軍総出でかかりゃあ…あんな船の修繕・強化なんざわけはねェ…朝までには間に合わせる。お前らの出航に支障は出さねェ。いいかお前らは必ず…!!おれ達が空へ送ってやる!!!」



なんて、強い人なんだろうか。身体も、精神も…気持ちも何もかも。大切なものを奪われたのにそんな素振りも見せずに、私たちのために身体を動かそうとしてくれている。全てはそう、私たちが空島へ行くために、なのだ。



「おいルフィ…」

「…ベラミーのマーク…!!!」

「手伝おうか」

「いいよ一人で」

「……ダメよ!!?ルフィ!!バカな事考えちゃ!!出航予定までもう3時間ないんだから!!!」



ナミの言葉に聞く耳を持たず、ルフィはただ、怒りを抑えるようにしてロビンに道を訪ねた。クリケットさんが止めるのをゾロが止め、ルフィは怒りのこもった声で「朝までには戻る」と言い残し走っていった。



「ったく…」

「仕方ねェなぁアイツは」



皆も諦めたように息を吐いた。誰もルフィが負けるなんて思っていない。ただ、無事に帰ってくるのを待つだけ。
皆が傷の手当てをしたり動き回っている中で、どうしてか私はその場から動けずにいた。今、私がこれ以上みんなと何かをしたら、きっともっとここにいたいっていう気持ちが膨らむばかりだと思う。…なんて。もういっぱい膨らんでいるのだけれど、それを認めちゃいけないような気がしてる。

本当、はここにいたいんだ。



「大丈夫か?」



サンジが飲み物を持ってきてくれる。口にするとスッキリして、だけど頭はぐちゃぐちゃのまま。
もし、帰りたいと願ったところで帰れるのかはわからない。帰りたくないと思ったところで、ずっとここにいられるかもわからない。だけど帰りたいし、ここにもいたい。
そう思ってしまう私は、ただ単にワガママなだけなんだろうか。



「むーちゃん」

「……はい?」

「…帰りたいか?」



タバコを咥えた彼の表情は分からなかったけれど、その質問に、すぐには答えられなかった。私自身、まだ悩んでいたから。矛盾した思考が行ったり来たりしているだけ。



「遠慮しなくていいんだぜ?帰りたいなら、そう言えば良い」



サンジの言葉がチクチクする。彼は気を遣ってくれているのだろうけど、その気遣いが今は悲しくなるだけ。迷っているから、だから口に出すにもどんな言葉で伝えれば良いのかが分からない。
どんな言葉でも受け取ってくれる事は分かっていても、何を言っても受け止めてくれる事が分かっていても、上手く伝えられる気がしなくて、言葉にならなくて。
視線が下がってくる。嗚呼、私は本当になんてちっぽけな人間なんだろうか。



「下ばっか向くな」



彼の手が私の顔をそっと持ち上げた。目の前に映る景色は、皆が一生懸命に動き回っている姿。船を直そうと必死で動き回る姿を見ると、胸が掻き回される。



「…わかんない……どうすればいいのか、帰りたいのか帰りたくないとか…」



ぼそぼそとこぼれ落ちていく言葉。



「帰りたいけど、ここにもいたい。帰れないのは怖いけど、ここから離れるのも嫌なの。……ただのワガママだ…」



サンジは何も言わなかった。ただそっと優しく私の頭を撫で、立ち上がり船の元へ歩いていった。
私がワガママだとすれば、私をここに連れてきた“誰か”は、なんて残酷なんだろうか。連れてきたくせに帰れと、どちらかを選べなんてそんな選択、今の私には簡単には出来ない。



「ウソップ!ちゃんとしなさい!」

「おれが一番ちゃんとしてるだろ!!?」

「ロビン、板持ってきたぞ!」

「ありがとう、じゃあこの板を運んでくれるかしらコックさん」

「おれに任せろ!」

「Zzz」



簡単には決められない。
だって私はみんなの事が、大好きだから。


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