飲めないお酒を飲んでずっと笑っていたら身体が火照ってきた。よろめく足を動かして体を冷やそうと家の外に出る。もちろんナミに一言声をかけて。
外に出ると賑やかな空気は消え、冷たい風を浴びると一気に現実に戻されるような気がした。
まだここにいたい、そんな気持ちだけは未だに離れない。だけど帰らなきゃいけないのも分かってる。私はここにいるはずの人間じゃない…そう思うと楽しかった気持ちが後ろめたい気持ちに切り替わる。



「…だめだなぁ」



ボソッとつぶやいた言葉が虚しく風に吹かれていく。このままじゃダメだと分かっている。帰りたい、帰れないのは怖い、けど、ここにもいたいのだ。もっと皆と笑っていたい、だけど、家族や友人の事を思うとまた罪悪感。
ぐるぐると回る、揺れる感情。



「むー!今から鳥を捕まえに行くぞ!」

「…鳥」

「サウスバードっていう鳥なんだけど、その鳥がいないと何も始まらないらしいわ」



呆れたようにナミが言い、そのまま私も皆と一緒に山の中に入る。無理しなくていいわよ、と言ってくれたが私は行く事を選ぶ。このまま迷ってばかりでも仕方ない。やれる事をやらなきゃ、少しでも皆の役に立たなくちゃ、とそんな気持ちが自然と「行く」と口に出していた。
震えるナミの腕が私の腕を捕まえる。



「暗い!!薄気味悪い!!!ああもうっ、なんでこんな時間にこんな山の中で鳥なんか探さなきゃいけないのよっ」



ガッチリ掴まれた腕は離れそうにはない。私も怖くなって2人で縮こまる。本当に薄気味悪い。
3チームに分かれてその“サウスバード”を捕まえる事になった。ナミは私の腕を放そうとせず、そのまま私とナミとサンジとウソップで行動することになった。



「大丈夫!!何が出ようとナミさんとむーちゃんはおれが守るぜ!!」

「サンジ君おれは!?」

「てめェは知るか!!ウジウジすんな!!」



ガチガチと震えるウソップはサンジに相手にもされず、真面目に鳥探しを始めた。私もナミもサンジも木の上を探し、“ジョー”というサウスバードの鳴き声に耳を澄ませる。落ち着いてきたのか私の腕からナミの腕が離れていた。



「お!ナミお前いいもんつけてんな…むーもだ」

「?なに?…………いやああああ!!!」

「…っ、!」



わさわさ、肩に違和感。その違和感に目を向けると、手のひらサイズのクモが私の肩にいた。恐怖に声が出ずにいると、咄嗟にサンジが私の肩からクモを払い落としてくれる。そしてそのまま草むらに私を引っ張っていってくれた。
ああ嫌だ嫌だ気持ち悪い。ナミとサンジが私をぎゅうぎゅうと挟み込むようにして傍にいてくれる。怖いけれど、ナミはまた凄い力で私と腕を組み、サンジは必死で私に身を寄せてくれている。その温かさに何だか安心感もあった。
ウソップは嬉しそうにクモと遊んでいるけれど、見ているだけでさっきの肩のわさわさとした触感が蘇ってくるような気がして、ちょっとだけ泣きそうになった。



「タランチュラの一種だろうな。大丈夫さ、こっちが手ェ出さねェ限り毒は吐かねェ」

「いやおれはそういう気味悪い系の虫はもうアウトだ!!!」

「私も!!!絶対イヤ!!!大嫌い!!!早く投げて遠くに早く!!!」

「へェ…でもお前らそこにいる蛾とかムカデは平気なのか?」

「!!?蛾もムカデもいやあああああ〜!!!」



ナミもサンジも、私もきっと顔は真っ青だろう。見渡す限りの虫たちに行き場を失った私たちは、ただ3人でくっついてひたすら叫ぶしかできなかった。こんなに頼もしいウソップを見たのは初めてだと、ナミが小さく呟いた言葉にサンジが大きくうなずいた。
その後も散々だった。1m以上あるのではないかというテントウ虫がありえない数転がってきたり、私たちを遥かに越える大きさのナメクジに塩を撒いたり、何千匹といるんじゃないかっていうゴキブリに追い掛けられたりと本当に未知の体験を沢山した。



「だめだ…」

「姿すら一羽も確認できなかった…」



全員が集合したが、誰一人としてサウスバードを捕まえるどころか見つける事すら出来なかったらしい。このままじゃ何も始まらない、とそんな不安が湧き出てくる。すると上から“ジョー”という奇特な鳴き声が聞こえてきた。嘲笑うかのように鳴き続け、チョッパーがそれを通訳する。チョッパーは動物だから、動物の言葉が分かるらしい。



「『お前らなんかに捕まるかバーカ』って…」

「何を!!?わざわざそれを言いに出てきやがったのか!!?」

「撃ち落としてやる!!!」



動物って人間に対して普段こんな風に思ってるのかな、って思うとちょっと面白かった。すると突然落ちてくる鳥。鳥の身体にはしっかりと腕が巻き付いていて、すぐにロビンの仕業だと分かった。
ロビンの方を見るとニコッと笑ってくれて、つられて私もロビンに笑いかけた。
傷だらけになったし気味の悪い思いもしたけれど、その笑顔は心の底から溢れた物だった。


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