場の空気が凍ったように静まり返っている。
「おやっさーん!!メシの支度が出来たぜー!!!今日のは格別だぜ!!!」
「コイツスゲー料理うめーんだ!!ハラハラするぜ!!!」
「だから一流コックだっつってんだろ。ナミさーん!!むーちゃーんごはんでき…」
「何だよ…やんのか!!!」
家の中で料理を作っていたサンジたちがドアを開けそう叫ぶのに、また静まり返る空気。ウソップはファイティングポーズで戦う気満々で、やっぱりこんなウソップを見るのは、私が知らないだけかも知れないけど初めてだとそう思った。
クリケットさんの表情も心なしか曇ったような、そんな感じに見える。煙草を蒸かして、まるで今にもまた襲い掛かってきそうなそんな空気に息を呑みこんだ。
「マシラの――…あいつのナワバリで日中“夜”を確認した次の日には、南の空に“積帝雲”が現れる…月に5回の周期から見て“突き上げる海流”の活動もおそらく明日だ。そいつもここから南の地点で起こる。100%とは言い切れんがそれらが明日重なる確率は高い」
そう、話しながらウソップに背を向け、スタスタと家に向かって歩きだす。
「おれはお前らみたいなバカに会えて嬉しいんだ。今日は家でゆっくりしてけよ
――――――同士よ」
ししっと笑ったルフィが家へと走っていく。ウソップはヘタッと座り込み、下を向いたまま動かない。そんなウソップにナミが声をかける。
「最善を尽くすしかなさそうね…空へ行く為に。でも…最終的には運任せ」
「ナミ…おれはミジメで腰抜けか?」
「おまけにマヌケね…気持ちはわかるわよ。謝んなさい」
「おやっさんごめんよォオオオ!!!」
「うわ!!てめェ鼻水つけんな!!」
ウソップがクリケットさんに飛び付き、何もなかったようにいつもの様子に戻った。ナミもルフィも、皆が笑いながらその様子を見つめている。
私はその様子を、何だか胸がきゅっとなるのを感じながら眺めていた。
「行かねェのか」
ふとゾロが振り返り私に声をかけてくれた。少し、迷ったけれど。
「…もう少しここにいる」
「……そうか」
数秒、ゾロとしっかり目が合っていたが私に背中を向けてゆっくりと歩きだす。
あんな、あたたかい空気が私は大好きで。向こうでは感じた事のないくらい心が満たされる。満たされて、幸せな気持ちになってた。
するとまた頭痛に襲われる。
ほんの少しだったけれど、幸せの気持ちとはまるで反対の気持ちもどこかに感じてた。…向こうの世界より、ここにいる方が人間を全うしている事に対しての罪悪感、なのかもしれない。
「むー!早く来ねェとサンジの作った料理なくなるぞ!ホラ、やる!!」
いつの間にか傍に来ていたルフィがニカッと笑って、私に大きな骨付き肉を私に差し出してくれていた。それを受け取るのを確認するとルフィはまた私の腕を掴んで歩きだしていた。前に進む足は、無理矢理でも嫌だと思う事は決してない。それが、嬉しいのだ。
「ホラ食えうめェぞ!!」
「むーこっちー!!!」
嬉しい、のだ。
頭痛さえも忘れるほど、賑やかで楽しい宴に参加する。飲めないお酒もほんの少しだけ飲んだ。お腹いっぱいになるまでサンジの作った料理を食べた。お腹が痛くなるくらいに皆で一緒に笑った。
「おれ達ァ飛ぶぞー!!」
「空へとぶぞー!!!」
―まだここにいたい
そんな気持ちがまるで張り付いたかのように、私の心から離れないでいる。
←