美味しいものをいっぱい食べて幸せだった。なのに、物陰に隠れている今のこの状況はそんな中にやってきた。今、目の前では壮絶な争いが繰り広げられている。
それは数分前にやってきた海賊にご飯を食べさせてあげたことから始まった。見たこともないくらい大きな人で、ルフィたちが同じ海賊だなんて思えないくらいの迫力と恐怖に満ちた人だった。
武器が振り回され、銃弾が飛び、人が宙を舞い、血が飛び、悲鳴が響く。見ていられなかった。聞いていられなかった。物陰に隠れて背を向け、耳を塞いで目をつむる。それでも聞こえてくる悲惨な声と悲惨な物音。
どうやら私は、海賊をなめていたらしい。詳しくはないけれど、海賊の戦いに血を見ないはずがないのだ。人が死なないはずがないのだ。
身体が震えていた。そんな私の前に差し出された大きな手に、私は縮こまっていた顔を上げる。



「お嬢さん、こちらへ」



金髪の、あのコックさんだった。恐がっていた私の手を取り、比較的被害の少ない安全な場所に連れていってくれる。…安全なんてそんな場所、今ここには存在なんてしていないのだろうけれど。
コックさんはすぐに戻っていく、その時また大きな衝撃に包まれる。もう何が何だかわからなくて、わかりたくもなくて、時間が過ぎるのを、戦いが終わるのをただただ待つしか出来なかった。

少し静かになった時、ふと隙間から騒がしい方を覗き見てみる。そこにはまた知らない人が1人がいて、その人と向かい合ったゾロさんが剣を振りかざしていた。一瞬の出来事だった。斬られたのは相手ではなくゾロさんで――彼の胸を、相手の剣が貫いていた。



「………っ、!」



それでも立ち向かっていくゾロさんの身体を、今度は縦に切り裂いた。血が飛んだ。飛ぶというより、吹き出すと言うほうが正しいのかもしれない。未だかつて経験したことのない恐怖に、止まりかけていた震えは度を増して私を揺らした。



「アンタも危険だ!こっちに来い!」



見ていられずに背中を向けていた私に投げ掛けられた言葉に振り向けば、ヨサクさんとジョニーさんが小さな船から手を伸ばし私を助け出そうとしてくれる。だけど私はその手を取らずに、助けてあげてと呟いた。自分の声が震えているのがわかった。
血に塗れたゾロさんがいて、ヨサクさんとジョニーさん、それからウソップが手当てに励む。気を失っているがまだ息はしているようで、血に塗れた胸板が小さく上下に動いている。苦しそうで痛そうで、死んでしまうんじゃないかという恐怖に胸が締め付けられる。血の臭いが鼻を掠め、ゾロさんの状況がいかに危ないものかがよくわかった。
だから、怪我一つせず隠れるだけの私を助けようとしてくれたその優しい手を、掴む事が出来なかった。掴んじゃいけないような気がした。

そこに、大きな声が響く。



「おれは幾年月でもこの最強の座にて貴様を待つ!!猛ける己が心力挿してこの剣を越えてみよ!!!このおれを越えてみよロロノア!!!」



私の耳に、皆の泣き喚く声が入ってくる。私の目に、まだ諦めず必死に手当てをするみんなが目に映る。私の眼に、天に向かって真っ直ぐに伸びる剣が映っている。
今にも死んでしまいそうな声で、ルフィに向けて声を出す。血を吐いて、それでも掲げられた剣は下ろされる事無く、力強く伸びている。



「二度と敗けねェから!!!!あいつに勝って大剣豪になる日まで絶対にもう、

 おれは敗けねェ!!!!」



涙に震えるその声に、胸がギュウっと締め付けられた。
ここに来た事を仕方ないからと簡単に受け止め、どうやって生きていこうとボーッと考え、なんとかなるだろうと暢気に過ごしていた自分が如何に馬鹿馬鹿しいものか。
生半可だったのだ、何もかも。海賊がどういうものかも、それに対するみんなの気持ちも何もかも知らずに海賊と一緒に行動しようだなんて。覚悟なんてないし死にたくもないし、誰かが傷付くのを見るのだって嫌だ。

血が出る程に噛み締めた唇よりも、締め付けられる胸の方がずっと痛いんだって事に今、ようやく気が付いた。


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