あれから倒れたオジサンを部屋に運び込み、みんなで看病をしている。途中でサルベージの時の園長ともう一人、知らない人が来た。私は見たことがないけど、どうやら皆は知っているらしい。
今はみんな打ち解けて、ルフィとゾロとウソップと私が部屋の外。ルフィは園長たちとわきあいあいと話をし、ウソップとゾロは家の壁にもたれかかって一休み。私はみんなと少し離れた場所で海を眺めながら考え事。
どうすればいいんだろうと、頭を巡るのはそればっかり。私が自分の生まれた世界に帰りたいのか、ここにいたいのか。普通なら生まれた世界に帰りたい、とそう思うのかもしれない。
別に帰りたくないわけじゃない。家族、友人や知り合いの顔が分からなかったときは、どうしようもない不安と恐怖に襲われた。このまま顔だけじゃなくて色々忘れちゃうんじゃないかって思うと、私に残るのは恐怖だけだった。



「むー!!オッサンが空島について教えてくれるってよ!!!」



いつの間にか部屋に入っていたルフィたちが飛び出してくる。その声に振り返ると、ルフィは私の腕を掴み皆のところまで引っ張っていく。ナミたちと並ぶように座ると、オジサンが空島について話し始める。俺の知っている事を全て教えてやる、と。
オジサンの名前はモンブラン・クリケットというらしい。



「この辺の海では時として真昼だってのに一部の海を突然“夜”が襲う奇妙な現象が起きる」

「あった!!おう!!あったぞそれ!!!」



話し始めたけれど、私の意識はどうしてもそちらに向かなかった。頭の中を占領するのはさっきからたった一つ。帰りたいか帰りたくないか、だ。
帰れないことに、こっちの世界に馴染んでいく事に恐怖はある。だけど、ここを離れるという選択肢にはどうしても辿り着けない。



「……むー、大丈夫?」

「あ、ごめん…うん大丈夫」



ボーッとしていた私を心配してくれたナミが、軽く背中を撫でてくれる。小さく頷くとナミはまた少し不安そうな、淋しそうな顔をしたけれど意識はすぐにクリケットさんの話に戻っていった。私も集中しようと、さっきまで考えていた事を無理矢理頭から振り払ってそっちに意識を向ようとする。



「ここからが本題だ。言っておくが――命を懸けろ」



命を懸けろ。
…何て重い言葉だろうか。クリケットさんの醸し出す何とも言えない空気感にゾクッとする。…私の命が、懸けられるほどの物なのかどうかわからないけれど。
思考はまた逸れてゆく。
――私は一体、生まれた世界ではどうなっているのだろう。行方不明?意識不明?それとも存在そのものが無くなっているのだろうか。もしくは……もしくは、何なんだろう。
だけどあの夢で見た皆は私の名前を呼び、手を差し伸べてくれている。私がいなくなったことで、皆は何かを感じてくれているのかもしれない。そうやって考えると胸がぎゅうっと絞まっていくような、だけど何だか哀しいような不思議な気持ちが胸に広がった。



「ウ…ウソだろ!!!」



ウソップの声を聞いて私の意識は引き戻される。ああ大変だまた聞いていなかった。



「だいたいおかしいぜ!!!……!!今日初めて会ってよ!!親切すぎやしねェか!!?それによ!!」

「おいウソップ」

「おめェは黙ってろ!!!」



珍しく、怒鳴っているのはウソップだった。相手を睨み付け、必死の形相で相手に向かっていく。こんなウソップを見るのは初めてではないだろうか。覚えてないだけかもしれないけど、思わず目を見張る。クリケットさんの言うことが信じられない、クリケットさんの言うことは話が上手すぎる。ウソップの言うことは確かに間違ってはいないのかもしれない。
…ほとんど聞いてなかった私が言うことじゃ無いのかもしれないけど。


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