また、あの夢を見る。内容は前と全く同じ。真っ暗な場所に立ち尽くす私と、私を呼ぶ皆の姿。差し伸ばされている2つの手を、やっぱり私は選べずにただ立ち尽くしている。



「…あ、むー!」

「むーちゃーん!」

「おはよう、具合はどう?」



小さな話し声が聞こえて目を開けると、みんながそこに勢揃いしていた。チョッパーがまた駆け寄ってきてくれるけど、寝てただけだよって伝えると安心したように良かった!と呟いた。皆が居てくれることに、酷く安心する。
しばらくナミたちに起きていた事件の事を聞く。言われてみればゾロもルフィも傷だらけで、心配そうな私を見て“何でもねーよ”とケロッとした表情で言ってのけた。



「…でもまた倒れた、なんて。しかも突然なんでしょ?」

「突然も突然だよ。普通に話してただけだったんだよなァ、サンジ!チョッパー!」

「ああ、いきなり顔が真っ青になって…そのまま意識無くなったみてェだな」

「あんまり突然だったから俺もどうしていいか分からなかったんだ…」



しゅんとするチョッパー。私を運んでくれたのはサンジさんだったみたいで、彼には本当にいつも助けられているような気がした。



「私があなたを攫った時も酷く体調を崩していた」

「攫った、ってロビンちゃん…」

「あなたは本来“ここ”に居るべき人間じゃないんでしょう?」

「…テメェ何で知ってやがる、あぁ?」

「……ゾロ、落ち着いて。たしかにどうしてそれを知っているのかは気になるけど、今はそんな事よりも大事な事があるわ」



ロビンの言葉に怒りを表すゾロと、それを抑えるナミ。皆が真剣な眼差しでロビンを見ている。
彼女は何かを知っているのだろうか…と、きっとここにいる皆がそう思っている。そして皆がロビンの言葉を待っている。あのルフィでさえ、大人しくロビンを見つめている。



「異世界…パラレルワールド」

「パラレルワールド?」

「ある世界から分岐し、それに並行して存在する別の世界。簡単に言えば、この現実とは別に存在するもうひとつの現実の事」

「そんなもんあんのか?」

「あると言う人もいれば、ないと言う人もいる。だけど彼女は実際にこの世界の人間ではないわ」



あり得ないはずの話をしているはずなのに、実際に私がここにいて、そしてロビンの言葉がそれをより現実化していく。今まで余り深くは考えてこなかった…というより考えたところで何も分からなかっただけだが、よく考えるとやっぱり不思議な現実がここにある。



「パラレルワールドが存在するとして、大事なのは“どうして世界を移動したのか”と言う事じゃないかしら」

「世界の移動…」

「例えば、向こうの世界にいた時にあなたは“どこか別の世界に行きたい”と強く願ったとして、何かのキッカケでそれが現実となった」

「…ありえねェ」

「どうしてあり得ないと言い切れるの?“あり得ない”事が至る場所で起きているこの世界で、そんな理由は通用しないわ」



ロビンの言葉に皆が黙り込む。確かにこの世界では私の常識は一切通じず、私の世界ならあり得ない事が普通に起きたりする。
ロビンを見れば、彼女の視線が私を貫くかのように突き刺さる。全てを知っているんじゃないかと、そう錯覚してしまいそうになる。実際に知っているのかそうじゃないのかは分からないけれど、彼女は私の言葉を待っているようだった。
向こうにいた時のこと。それはもう、まるで随分と昔の事のようなそんな気がした。



「違う世界に行きたいって思ったことはあるかもしれない」

「…かもしれない、か」



向こうにいた時の事を思い出そうとすると、思い出すのも難しいくらい薄っぺらい出来事しか浮かんでこない。友達も家族もいて、特に不自由のない生活を送ってた。嫌な事から逃げてばっかりで、いつも張り付けたような笑顔で誤魔化す事ばっかり上手くなる。気の知れた友達はいたけど、今みたいに自信を持って仲間だと言ってくれる人はいなくて、何となく過ぎていく毎日、過ごしてきた年月に、意味や理由を見つけられずにいたのかもしれない。
……だから、



「…時々……私なんか死んじゃえばいいのにって思ってた。…いつ死んでも良いって、思ってた」



思い出すと、自然と顔が下を向く。ズキズキ痛みだす頭を我慢しながら、そんな思考が胸を覆っていく。



「……ごめん、頭、痛くなってきた」

「…顔色も良くないわ。無理させてごめんね…しばらくゆっくり休みなさい。さっ、むーが休むんだから私たちは退散!」



何となく皆を見るのが怖くて、頭痛を理由に布団に潜り込む。ナミの声で皆が部屋を出ていった。外からルフィとナミが何かを言い合っている声が聞こえてきた。
…皆は私の言葉を聞いてどう思ったのだろうか。そんな不安を隠すように、目一杯息を吸い込んでさっきよりも深く布団に包まり、ぎゅうっと目を閉じた。


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