夢を見る。
何度か見たことのあるあの真っ暗な場所に私は、相変わらず独りポツンと突っ立っている。私を呼ぶ声がして振り返ると、あれはきっと私の家族。後ろには学校の先生や友達もいる。――はずなのに、みんなの顔はぼやけていてハッキリ見えやしない。漠然とした不安に襲われながらゆっくりそっちに近付いていくと、今度は後ろからルフィたちの声がする。振り返って見ると、皆は手を振りながら私を呼んでいる。行かなきゃ、そう思うと家族や友達に名前を呼ばれ、戻ろうとすると今度はルフィたちに名前を呼ばれる。途切れる事のない両方の声に惑わされながら、私は結局どちらも選べずに独りポツンと立ち尽くしていた。
「……、」
「…おおっ、サンジ!チョッパー!!むーが目ェ覚ましたぞー!!!」
目を開くとベッドの上で、額には薄らと汗が滲む。すぐ傍にはウソップがいて、呼ばれてサンジさんとチョッパーも急いだように部屋に駆け込んできた。サンジさんの手には包丁と林檎、チョッパーの手には何か薬草らしきものが握られている。
「だ、大丈夫か!?」
「急に倒れるからびっくりしたぜ…待ってろ、直ぐに温かいモン持ってくる」
「倒れた原因が分からないから薬も出せなかったんだ…。頭が痛いとか気持ち悪いとかあったら言ってくれよ」
「ありがとう、今は大丈夫」
スルスル剥いてくれた林檎はウサギの形で、ウソップとチョッパーと3人でそれを食べる。呆れながらもちゃんと三人分の特製ドリンクを持ってきてくれたのはサンジさんの優しさなんだろう。
それから4人でまたさっきみたいに話を始める。内容は、コロコロ変わる私の体調のこと。こんなに頻繁に変わる私の体調の変化の原因は、チョッパーでさえも分からないらしく頭を抱えている。
「それよりこの船もうボロボロだぜ」
「そうだなぁ…ルフィたちが帰ってくるまでにちょっとでも修理しとかねェと。ようしっ、行くぞチョッパー!」
「え!?お、おおっ!」
暗くなった空気を払拭するように出たサンジさんの言葉に、ウソップとチョッパーが立ち上がって外に出ていった。
「一人で大丈夫か?」
「うん、大丈夫」
「目眩とか頭痛とか、なんかちょっとでも違和感あったら言えよ?我慢しねェでさ」
「ありがとう」
私の傍に来てぽんっと頭を撫でてくれる。珍しく煙草は咥えておらず、その口元には薄らと笑みが見えた。俺も行ってくるわ、と私に背を向ける彼に私の口が咄嗟に動いてた。
「…サンジ、」
「……どうした?」
「…って、呼んでいい?」
「………勿論だ」
ニッと笑った。私も同じように笑い返すと、スッと背を向け右手を軽く上げて部屋を出ていった。
部屋はまた静かになり、カンカンと船を修理している音だけが小さく聞こえてくる。
一人きりの部屋で私なりに色々考えた。あの夢の事も、自分の体調の事も。何なんだろう、何だったんだろう…そんな思いが胸を覆っていく。
「ルフィ!!!ゾロ!!!」
外から聞こえたそんな声に、皆が帰ってきたんだって気付く。起き上がろうと身体に力を入れるとまだほんの少し頭が揺れた。スッキリしたけどやっぱり全快ではないらしい。揺れる頭を押さえるように布団に潜り込む。
不思議と直ぐに訪れる睡魔。頭がボーッとして、一瞬であの真っ暗な世界に、堕ちた。
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