船には私とサンジさんとウソップとチョッパーが残った。ルフィとゾロは出て行って、ナミはそれを追い掛けて行って、ロビンはいつの間にか居なくなっていた。



「静かだなァ…」

「ああ静かだ…」

「パイが焼けたぞ、おら食え」



今はお茶を飲みながら“まったり”している。サンジさんが焼きたてのパイを持ってきてくれて、サツマイモの甘い香りが鼻を掠めた。ウソップとチョッパーは待ってましたとばかりにパイを頬張り、私もそれを見ながら口に含む。うんやっぱり、すごく美味しい!



「どうだ?体調は」

「あ、はい、最近は良好です」

「ならいいンだが」



サンジさんは自分で作ったパイを食べることもなく、脚を組んでタバコを蒸かしている。作って満足なんだろうか、彼が自分で作ったデザートを食べている姿はほとんど見たことがない。勿論、三食は食べてるけど。



「んなァむーはァよォ、」

「食いながら喋んじゃねェ」

「んぐ、悪ィ悪ィ!むーんとこの世界ってどんなとこだったんだ?」

「それおれも聞きたい!」

「この辺の街と変わんねェのか?」



新たにパイを口に運びながらそう問い掛けてくる。しばらく考える事も忘れていたけど、久しぶりに向こうの世界のことを考えてみる。
こっちの世界とは似ても似付かない世界。地面はどこを見てもコンクリートやアスファルトで、何処までも伸びていくような高層ビルに囲まれて、お金さえあれば欲しいものは何だって手に入ってしまうようなそんな世界。



「何でもあるけど……何もなかった」

「…どういう意味だ?」

「……毎日空っぽだった」



一瞬だったけどしんとなる。すぐにウソップが「不思議なもんだな」と、そう呟く。



「こっちの世界は楽しいか?」

「楽しい、っていうか…なんか不思議な感じ」

「毎日騒がしいうえに濃いからなァ」



笑いながらそう言うサンジさんに私も笑って頷いた。本当に、今まで向こうで生きてきた十数年間は何だったんだろうって思っちゃうくらい、今はぎゅうぎゅうに詰まった毎日を送ってる。色んな経験もしたし、きっとこれからもするだろうと思う。
明日は何があるんだろう、なんてそう思える毎日が私は好きになっている。



「むーは兄弟とかいるのか?」

「兄弟?兄弟、は…」

「どうした?」

「…なん、でも…ない……」

「おいおい、そんな顔色で何でもないわけないだろ!」



吐き気がする。頭痛も酷い。さっきまでは全然平気だったのに、どうしてだろうって、考えるヒマも無いくらいに頭はグラグラ揺れる。
姿勢を保つのもつらく、前の机に身体が沈む。私の右腕を支えてくれる腕はきっとサンジさんのもので、頭の上ではウソップとチョッパーが「大変だ!」とか「どうした!?」とか、そんな騒がしい声が聞こえてきたけどそんな声はもう意識の向こう側。



“ むー ”



恐怖と不安に埋め尽くされている。こっちの世界に馴染んでいる事が恐くなった瞬間。
どうしてだろう向こうの世界の皆の顔が、思い出せずにいた。


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