戦いの後もまた何かあったみたいで(私は船内から眺めていただけだから詳しくはよく知らないけど)、私が外に出た時にはそこには2人の知らない人が増えていた。ヨサクさんとジョニーさんという名前らしく、1人は血を吐きながら仰向けに倒れている。
ナミさんは私にライムを絞って持ってくるように言った。キッチンを探すと袋いっぱいに入っていたそれがすぐに目に入る。近くにあった小さな木の樽に出来る限り汁を絞り入れると、ライムの香りが鼻を掠めた。
外に待っていたルフィとウソップに渡すと、倒れている人の元に向かって無理矢理飲ませていた。そうするとどうやら事態は一段落したようで、今は皆で落ち着いている。私も同じように座ってみたけど、皆の会話は耳に入ったまま直ぐに通り抜けていった。



「着きやしたっ!!!海上レストラン!!」



ボーッと船に揺られていた私たちの耳にそんな声が届く。すぐ目の前には魚の形をした大きな船があり、どうやらこれが先程言っていた海上レストランというものらしい。
そしてまた始まった小さな戦い。“海軍”と何かあったらしいが私にはやっぱりよく分からなかった。ただ、悪いのが“こっち”で無い事だけはハッキリとわかる。だって何もしていないのだから。



「どこに返してんだバカッ!!!!」



ゾロさんの叫び声が耳に入った時には、すでにルフィが跳ね返した砲弾がレストランを直撃していた。皆の表情を見る限り解ることは、取り敢えず良くないことをしたと言う事。ルフィが謝りに行く為に1人でレストランに乗り込んで行った。あいつバカだなとか、先が思いやられるわとか、みんなはルフィに対してかなりの不安を覚えているように見えた。



「むー、それで行くのか?」

「そうね…パジャマじゃちょっと失礼、っていうか場違いかもしれないわ。着替えは持ってないの?」



ナミさんの問い掛けに首を横に振ると、困ったように考え始める。暫くの間が空いた後、それも買いに行かなきゃね、と私に向けて小さく微笑みかけてくれた。
取り敢えず、サンダル同様にまたウソップがズボンを貸してくれてそれで対処。ウソップにしたら七分丈のそれは、私にしたら立派な長ズボン。身長が低い上に純粋な日本人体型…いわゆる短足人種の私にはそれでも少し長いようだった。
パジャマより幾らかマトモになった格好でレストランに入ると、船上とは思えないくらい綺麗なところで驚いた。こんな高そうなところ、初体験。テーブルマナーだって授業でちょっとやったくらいで詳しい事なんてわからないのに。だけどそんな思考は料理を目の前にした途端すぐに頭から消えてしまう。そうだ、お腹空いてるんだ私。
ナミさんが金髪のコックさんに猛烈なラブコールを受けているその隣で私は料理を頬張った。思わず零れた“オイシイ”という言葉に振り向いたコックさんと一瞬目が合ったが、すぐにまたイザコザ。…海賊って、常に戦いとかこういうイザコザが絶えないものなのだろうか、やっぱり。



「むーそれ全部持つのよ」



ナミさんに言われたけど、私の頭にはハテナマーク。いいから早く!という言葉に目の前の料理を持ち上げた瞬間、目の前から机が消えた。理解しようとしている私の頭が回転するよりも早く新しい机が運ばれてきて、何事も無かったかのように皆が食事を再開させた。



「先ほどは失礼、おわびにフルーツのマチェドニアを召し上がれ。食後酒にはグラン・マニエをどうぞお姫さま」



再びやってきたコックさんがナミさんと私の前にフルーツたくさんのデザートを差し出してくれる。コックさんはナミさんのグラスにお酒を注ぐと、今度は私の隣に立った。



「お嬢さんにはオレンジジュースを」



…私がお酒を飲めないことに気が付いてくれたんだろうか。驚いて彼を見つめるとニッコリ笑いかけてくれたから、私も笑って「ありがとうございます」と返した。
マチェドニアと言われたそれはまるでフルーツポンチのような味。だけどそれよりもずっと美味しいような気がした。美味しいものをお腹いっぱい食べられるなんて、すごく幸せなことだと思う。



「お味はいかがでしょう、お嬢さん」



そんなコックさんの質問に答えを考える。自分の気持ちを人に伝える事は苦手だけど、コックさんは私の言葉を待ってくれているようだ。頭の中で色んな言葉がグルグルする。やっと見付けたピッタリな言葉を口にすると、一瞬、ほんの少し目を見開いたがまたすぐに優しい笑みが浮かぶ。



「最高の褒め言葉だ」



言ってから恥ずかしくなった、だけど嘘はつかなかった。こんなに美味しい料理を食べたのは初めてです、なんて、お母さんに申し訳ないと思いながらも残りのフルーツをゆっくり口に詰め込んだ。


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