アラバスタを出てから、船にはまた平和な日常が戻ってきた。体調もここ最近はずっといい。あの気味悪い夢はたまに見るけれど、もう気にしない事にした。やっぱり、きっと疲れていたんだろうと思う事にしたから。
「さみしー……」
ぐだっと、だらけた様子を見せるゾロさん以外のメンバーたち。ビビさんとカルーがいなくなってから、この船は何だか急に静かになった気がする。だから、寂しい、とその気持ちは私も十分すぎるくらい感じている。
「…やっと島を出たみたいね…ご苦労様」
「ああ。……………?」
「!!!?」
「!!!」
「………………………!!?」
声にならない声を上げるみんな。私も例外ではない。状況を把握すると皆が様々な反応を見せる。そりゃ、そうだ。
居るはずのない人物が、さも当前かのようにこの船の中から出て来たのだから。しかもお風呂に入ったり読書をしたりしていたらしい。いつもはナミが使っている椅子を取り出し、やはり当然かのように座る。
「私を仲間に入れて」
…仲間、に。
彼女は私をこの船から連れ出し、あの人の所に連れていった張本人。ニッコリ笑顔を浮かべた彼女は本当に綺麗で、だけど拭いきれない警戒心が私を強張らせる。
「死を望む私をあなたは生かした…――それがあなたの罪…」
一旦落ち着くと彼女はゆっくりと話す。落ち着き払った彼女は、まるでもうこの船に居ることが当然だとそう主張しているように見えた。
「私には行く当ても帰る場所もないの――だからこの船において」
「何だそうかそらしょうがねェな」
「いいぞ」
「ルフィ!!!!」
「心配すんなって!!こいつは悪い奴じゃねェから!!!」
そんな軽い流れで彼女は仲間になった。彼女の言葉は私の頭を回って離れない。
「…どうかした?」
「……あ、いや………何も」
目が合った。だけど私はすぐに逸らした。何だか全てを見透かしているような目が、少しだけ怖いと感じたから。見透かされて困るような事は何もないけれど。
みんなはすっかり認めるしかなかったようで、今は普通に彼女の話を聞いている。8歳で考古学者になりそして賞金首となった彼女は、その後20年間はずっと政府から姿を隠して生きてきた、らしい。
何とも言えない気持ちになった。
――行く場所も帰る場所もない。
その言葉が私の胸をほんの一瞬、しめつけた。境遇は全く違うかもしれないけれど、私も彼女と同じ。行く場所も帰る場所も、私にはないのだ。
「また気分悪ィのか?」
「…ううん、なんでもない」
ゾロさんが私の隣に来て、そう心配してくれる。だけど体調はすこぶる快調。それを伝えるとゾロさんは小さく頷いて視線を彼女へと向けた。
「…………いいわね。……いつもこんなに賑やか?」
「………ああこんなもんだ」
「そ」
遊んでいる3人、サンジさん、ナミさんももう抵抗はないようだ。私は…少し抵抗はあったけれどルフィの言葉を信じる。きっと悪い人じゃない。
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