船はゆっくり動き出した。だけど進む先には既に海軍の船が沢山ある。何方向からも飛んでくる槍がいくつも突き刺さり、その度にメリー号は激しく揺れる。
危険だから、と私は部屋に押し込まれる。わかってる。皆が私の事心配してくれてるって、わかってるんだけどやっぱりどこか寂しく思う。だからって外に出たって何も出来ない。この船に乗ってから何度か感じているその気持ちに、大きなため息が漏れた。



「むー、もう大丈夫よ!」



揺れが収まるとナミが呼びに来てくれる。外に出るとメリー号は海軍の標的から離れ、後ろでは海軍の船と別の船が炎を上げながら激しい争いを続けていた。
ルフィ、ウソップ、チョッパー、それにサンジさんまでもがそちらを眺めなからダラダラと涙を流している。何があったのか分からずナミを見ると「あの人が私たちの代わりに囮になってくれたのよ」と説明してくれた。いい人だったんだなぁって、短い出会いだったけれど心の中で感謝。



「行こう、12時を回った…」



誰かがつぶやいた声がメリー号に響いた。12時までにビビさんがここにある港に現われたのなら一緒に旅を続ける、とそんな約束を交わしたのだ。だけど彼女の姿は見えなかった。この広い海に響く彼女の声が、私たちと旅をしない事を決めたのだと確信付ける。彼女はいま“王女”として、町人に向けて言葉を授けているのだ。
ルフィはまだ信じている。ビビさんが必ず現れ、自分たちと一緒に旅をするのだと、信じている。淋しいのはきっと皆同じ。だけどルフィにかける言葉が見付からなくて、隣に立って島を眺めるしか出来ない。やっぱり私は、まだまだ何も出来ないのだとそんな気持ちが一瞬私の胸を締め付けた。



「みんなァ!!!」



目の前に、現れた。皆が待っていた人がすぐそこにいる。ビビさんとカルーが大きく手を挙げて立っていた。来てくれたのかと、皆が喜んだ。船を戻して迎えに行こうと動きだした時、彼女が叫んだ。



「お別れを!!!言いに来たの!!!」



皆の動きが一瞬止まる。



『私…一緒には行けません!!!今まで本当にありがとう!!!冒険はまだしたいけど私はやっぱりこの国を、

―――愛してるから!!!!』



スピーカーを通して、彼女の声がはっきりと聞こえてきた。途切れる言葉、鼻を啜る音、震える声――彼女は、泣いている。



『…私はここに残るけど……!!!』



ぎゅうっと締め付けられる、胸。ビビさんの眩しいくらいの笑顔が頭に浮かんで、鼻がツンとする。



『いつかまた会えたら!!!もう一度仲間と呼んでくれますか!!!?』



その声に更に胸がぎゅうっとしめつけられた。悲しい、だけどそれだけじゃない。正直ビビさんとはそこまで仲良くなれたわけではないけれど、だけど色んな感情が一瞬で胸を駆け巡る。
ゾロさんが私の腕を掴むと、ぐるぐるに巻かれた包帯を勢い良く外した。

――――そうだ、



「出港〜!!!!」



掲げられた左腕。拳を突き上げながら、込み上げてくる感情をグッとこらえる。
離れていても“気持ちはどこまでも一緒”で、“これから何が起こっても左腕のこれが仲間の印”なのだ。例え印が消えても、胸に焼き付いた気持ちはきっと消える事はない。

もう泣かない。強くなるんだ。皆が居てくれるから、だから頑張ろうって思えるんだ。仲間、とその言葉が私の胸に深く刻まれる。
また一つ、終わった冒険。島を眺めながら今まで関したことのないような、清々しい晴れやかな気持ちになる。そんな私の気持ちを表すかのように晴れ渡った空。まるでビビさんの笑顔を表すかのような眩しい太陽が、この海全体を照らし続けた。


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