「じゃあ改めて…」

『乾盃だーっ!!!』



1人ひとつのグラスを持って盛大な乾杯。みんなグイグイ飲んでいるが、私は進まなかった。その様子を見ていたらしいナミさんが私に飲まないのかと問い掛ける。



「や…私、未成年なんで…」

「未成年?そんなの皆でしょ」

「お前いくつなんだ?」

「17歳です」

「17?なんだ一緒だな!」



ニカッと笑った彼はルフィというらしい。そしてどうやらウソップも同じ歳らしく、さんとかいらねぇって事で早速呼び捨てにさせてもらっている。ちなみにナミさんは18歳でゾロさんは19歳とのこと(年上だから2人はさん付け)。一口飲んでみたお酒はやっぱり私の口には合わなかった。

今船には巨大な布が一枚広げられていて、周りには白と黒のペンキがある。その布にルフィが書き上げた髑髏は私の口から言うのも何だがとても酷い。見兼ねたウソップが書き上げたソレは同じものとは思えないくらいの作品になった。
ホントはこの時から、薄々嫌な予感はしていたんだけれど。



「これで“海賊船ゴーイング・メリー号”のできあがりだ!!」



海賊船ゴーイング・メリー号。
海賊だとかそういうものを全く知らない私にでも、この船が海賊船に似ている事くらいはわかる。そしてあのドクロの書かれた巨大な布。だけど私から見た印象で言えば、彼らが海賊に見えるわけではなかった。私のイメージでは某海賊映画のようにボロボロの服に帽子、そして腰に刺さった刀。ゾロさんの腰には刺さっているけど、他の3人にはそれがどれも当てはまらない。
やっぱりここにも意外と冷静な自分がいる。



「そういやおめぇ、名前なんてーんだ?」

「…むー、です」

「むー?へんな名前だな」



ルフィの感想に苦笑いを浮かべていると、体育座りの私の足下に黒いサンダルが転がってきた。顔を上げるとそこにいたのはウソップ。裸足の私を見て、持ってきていた大荷物の中から貸してくれたらしい。ありがとう、と小さく呟くと彼はまたにっこりと笑った。
履いたサンダルは私の足よりも随分と大きかったが、裸足で過ごすよりもずっとマシだろう。
そんな事を考えながらサンダルを眺めていると突然、ドウン!!という爆音と共に身体に大きな振動と衝撃が加わる。その方向に目を向けると、ルフィが大砲を操っていた。ウソップもルフィの側に行き同じように大砲を操り、遠くにある岩に見事命中させていた。

一通り騒いでから船の中に入る。私はナミさんの隣に、ほんの少しの距離を開けて座る。この距離がきっと私と彼女たちとの距離。
しばらくこれからの為の話し合いが続く。何だか噛み合ってないような気もするけど、端から見て楽しそうだからいいのかななんて思った。ただやっぱり私も海賊として生活していかなくちゃいけないのかと思うとまた気分が重くなる。
ここがどことか何があったのかとか、そりゃ気にもなるけど気にしたところでどうなるかわからない。解ったところでどうすればいいのかもわからない。今の私に必要なのは、この場所で生きていく術。ここまで来てしまった以上、もう受け入れるしかないのだこの現実を。



「出て来い海賊どもォーっ!!!」

「てめェら全員ブッ殺してやる!!!!」



そんな叫び声と共にバキバキっとかガシャアンという音が船内に響き、揺れる。外で誰かが暴れているらしい。ルフィが外に出て勇敢に闘っている、らしい。
全部“らしい”なのは、船内の窓に張り付いているウソップとナミさんで外が見えないから。私がそこに行かないのはやっぱりそれくらいの距離があるから、だ。


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