目を覚ますとフカフカで真っ白なベッドの上だった。寝たおかげか身体は随分と楽になっている。



「大丈夫ですか」



“MARINE”と書かれた帽子を被った男の人が心配そうに私を覗き込んでいる。…私がこれでも一応海賊だと知らず看病をしてくれていたのだろう。
ゆっくり起き上がると「無理しないでくださいね」と優しく声をかけてくれた。野菜たっぷりの温かいスープを差し出してくれてそれを飲むと、身体の芯から温まるような気がした。



「顔色は良くなったようだな」

「……ありがとうございます」



様子を見にきたのかスモーカーさんが現れた。ベッドから見上げると実際以上に大きく見える。
もうどのくらい時間が経ったのか分からないけど、気になるのは皆の事。大丈夫だとは分かってる、信じてる。だけどみんなの姿を見ないと、そうは思っても不安だけが私の胸を渦巻いている。
スモーカーさんは私を看病してくれた人に何かを話している。少し離れてしまったから内容は聞けないけれど、私の看病をしてくれていた人は私をチラチラ見ながら焦った様子だ。すぐにスモーカーさんは出ていき、残された彼がそっと私に近付いてくる。



「未だ余り動くのは良くないと思うんですがスモーカー大佐の命令でして…すみません貴女を送ってやれ、と言われまして」



大きく頷いて布団から起き上がる。慌てたような彼も私の様子を見て直ぐに行動してくれる。早く、早くみんなの所に行きたい。
外は雨が降っていた。乾いていた洋服がまたびしょ濡れになって肌に気持ち悪くくっついている。しばらく歩いていると人混みが見えてきて、そこには沢山の海軍の人の姿も見えた。すぐにソコだと分かった。
人混みを掻き分けて前に進み、先にいた皆はボロボロの姿で地面に倒れていた。



「みんな、」



駆け寄って名前を呼んでも、誰一人目を覚まさない。無事だったことは分かってる。だけど目に映るみんなの姿にまた、私の胸は張り裂けそうになる。

――みんなが戦ってる中で私は、



「終わったの………全てが、終わった」



ありがとう、と呟いたビビさんがきゅっと私を抱き締めてくれる。だけど私にはそんな言葉は相応しくなくて、また苦しくなる胸。
ビビさんの肩は震えていた。同じように、つられるように私の中から色んな感情がぶわっとあふれ出てくる。
何も出来ない自分が大嫌い。何も出来なくて悔しい。だけどみんなが勝って嬉しい。



「彼らを運んで宮殿へ行きましょう、皆の手当てをしなくてはいけないわ」



ニッコリ、力強く微笑んだ彼女に私は大きく頷く。思った事は沢山ある。だけど何より、
みんなが無事だったことが一番嬉しいと思った。

すぐに広い宮殿に運ばれたみんなは、相変わらず目を覚まさないままで手当てを受けている。私も何かしなきゃと、出来る事は少ないけど精一杯身体を動かした。



「貴女も少し休むといいわ」

「……皆が戦ってる間、私は何もしてないから…だから…」

「…そう、だけど無理しないでね」



椅子に座って皆を見るしか出来ない私の肩に、ビビさんはそっと毛布をかけてくれた。
今は疲れて眠っているだけだとお医者さんは言い、彼らが目を覚ますのを待つしか私には出来ることはない。だからじっとそれを待つ。



「…お二人共、まだ起きていたのですか…」

「イガラム…」

「眠れませんか………?」

「ううん…眠りたくないだけ………この雨をもっと見ていたいから…」



ビビさんは窓からずっと、降り注ぐ雨を眺めている。この雨はもうしばらく止みそうにはない。


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