ウソップとルフィも意識を取り戻したようで、いつもの元気な声が聞こえてくる。



「うおっ!!けむりっ!!やんのかお前っ!!!」

「ぐあァ!!!スモーカー!!おいルフィやめとけ逃げるぞ!!!」



戦う気満々なルフィはスモーカーさんに向かってファイティングポーズ。遠くの方から近付いてくる足音や声が耳に入る。立ち上がろうと足に力を入れると、まだまだ身体はフラついている。ああダメだ、もう立ってるだけでも辛い、怠い。フラッと眩む、そんな私に気付いてくれたサンジさんがそっと腕を伸ばしてきてくれた。ああ彼は本当に紳士的、だ。



「………行け」

「ん?」

「―だが今回だけだぜ…おれがてめェらを見逃すのはな…」



スモーカーさんはほんの少し私たちから視線を落とし、そう呟いた。本来ならば海賊を捕まえなければいけないはずの海軍の人が、海賊である私たちに「逃げろ」と、そう言ったのだ。



「あそこだ!!麦わらの一味だァ!!!」


「さァっ!!行こうぜ海軍が来る。アルバーナはどっちだ!?」

「向こう!!東へ真っすぐよ」

「おいルフィ急げ何してる!!」



サンジさんが引いていた私の腕を、今度はルフィが引き寄せる。サンジさんは驚いたようにルフィを見るが、ルフィは私の腕を離そうとはしない。



「なぁ、」

「あ゙ぁ?」

「むーを預けてもいいか」

「はぁ!?何言ってんだお前!!?」

「そうよ!いくらちょっといい人だからって相手は海軍なのよ!?」



私を抱えた彼はじっとスモーカーさんを見つめ、相手も同じようにルフィを見ている。こんな事をしている暇はないはずなのに。ナミもウソップもサンジさんもゾロさんも、チョッパーでさえもルフィに反論を述べている。



「何考えてんだルフィ!!早く、」

「こんな状態のむーをこれ以上危険な場所に連れていくわけにはいかねェんだ。俺達は必ず戻ってくる。だから安全な場所に連れてってくれねェか」

「………………………わかったからさっさと行けェ!!!」



グイッと、私をスモーカーさんに押し付けた。他の皆もルフィの言葉に納得したようで、渋々と言った感じで了解したようだ。私はただ、去り際に「必ず迎えにくるから」と言ってくれた皆を信じるしかない。



「追え逃げたぞォ!!!」

「大佐!!追われないんで!?」

「…………ああ…疲れた」

「疲れた!?…それにこの娘は一体……」



海軍の人が私を指差してそう言う。睨むように私を見たスモーカーさんが「保護しただけだ」と吐き出した。私の顔を覗き込んだ海軍の人は納得したように小さく頷いている。…私そんなに酷い顔をしてるのかな、なんて。
フラつく私を余所にスモーカーさんはゆっくりと歩きだした。着いていかなきゃ、と重たい足を何とか動かす。
だけど、止まる足。



「どうした歩けねェのか」



違うそうじゃない、それもちょっとだけあるけど、そうじゃない。皆は必死に戦おうとしてるのに私だけこんな風に“保護”されるなんて、なんだか自分が許せない、そんな気持ちでいっぱいだった。私が行ったところで何も出来ないことも役に立たないことも自分が一番分かってる。だけど悔しい。変な正義感振りかざしてるわけじゃない、だけど何もない自分がちっぽけでただ迷惑かけてるだけだって思うと、泣きそうなくらい胸がギュウっと締め付けられる。



「何か考えンのは勝手だが、全部その顔色何とかしてからにしろ」



左腕に私を抱えた彼がそう言った。首に当たる銀色の髪がチクチクとくすぐったい。
自分が考えている事が余りに馬鹿馬鹿しい事に気付く。何も出来ない、だから、迷惑くらいかけないように大人しくしてなきゃいけないんだ、って。
ぎゅっと噛み締めた唇が痛い。寒気はするし頭もぐらぐらしてるし視界はまた霞んでくる。今はちゃんと自分の体調が良くなるように、スモーカーさんに任せようと思うと同時に私の意識は途絶えた。


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