落ち着いた船の上ではいつものように賑やかな光景がある。ルフィとウソップが踊っているのが見えた。平和だ、戻ってきたんだ、って安心感で胸がいっぱいになった。
急に全身から力が抜けるような気がして傍にあった柱に寄りかかる。頭がぐらぐらして、また貧血かなぁ、なんて冷静に考える自分がいる。だけどやっぱり身体のダルさよりも、良かったっていう安心感が大きかったのだ。
真っ青に広がる空を見つめていると、バサッと隣に倒れてくる、ナミの綺麗なオレンジ色の頭が見えた。
「みんな来て!!!大変っ!!!」
「……ナミ、!」
真っ赤な顔で全身に汗を滲ませたナミの姿があった。息も荒くて苦しそうな顔をしている。
すぐに駆け寄ってきたサンジさんがナミを持ち上げてベッドまで運んでいく。私も何かしなきゃ、とまだ少しふらつく足で立ち上がり、水に濡らしたタオルを絞りナミのおでこにそっと乗せた。私に出来ることは、これだけだった。
サンジさんはダラダラと涙を流しながら、苦しそうなナミを見てこれ以上ないくらいに悲しんでいる。
「ナビざん死ぬのがなァ!!!?なァビビぢゃん!!!」
「おそらく――気候のせい…“偉大なる航路”に入った船乗りが必ずぶつかるという壁の一つが異常気候による発病…!!!どこかの海で名を上げたどんなに屈強な海賊でも‘これ’によって突然死亡するなんてことはザラにある話」
ビビさんが言う話にみんなはじっと耳を傾ける。“死”と言う言葉に、この事態がいかに深刻な事なのかっていうのを身に染みて感じる。そして何より、この船に医学っていうものがわかる人はナミしかいないということ。周りには海しかないこの船の上で、そのナミが倒れてしまったのならもう、どうする事も出来やしない。
そんな中でもナミの熱はどんどん上がっていく。もう40度だって、ビビさんが言ってる。
「病気ってそんなにつらいのか?」
「いやそれはかかったことねェし」
「あなた達一体何者なの!!?つらいに決まってるじゃない…!!!」
苦しそうなナミの汗を拭きながら、何も出来ない自分が嫌になる。私も風邪とかあんまりひかない健康体だったからそういう知識がほぼないのだ。
後ろで騒いでいるルフィとウソップとサンジさん、と、カルーの声に閉じていた目がゆっくり開く。うっすらと笑って“ありがとう”と、いつものナミらしくない小さな声で私に伝えてくれた。
「医者を探すぞ!!ナミを助けてもらおオオ!!!」
「わかったからっ!!落ちついて!!!病体にひびくわっ!!!」
「………だめよ」
そっと起き上がったナミ。大丈夫なのかと身体に手を添えればその身体はまるで燃えるように熱い。タオルももう熱くなってる。私は一旦ナミにタオルを貰い、再び冷たくなるようにキッチンの水道まで足を急がせた。
ぎゅうっとタオルを絞る。するとギッと床がきしむ音がして振り返るとそこには真っ赤な顔をしたナミが立っていた。
「……え、大丈、」
「ありがとう私は平気だから」
「でも、!」
大丈夫、とニッコリ、だけど浮かべた笑顔が余計に私を心配にさせた。大丈夫なはずないのに、絶対無理してるのに、…って、思うだけで何も言えない自分がまた嫌になった。ナミの背中が窓の外に見えた。
絞ったタオルをじっと眺める。私が風邪の時はいつも何してただろうって、少ない経験の中の記憶を辿っていく。小さい時、よくお粥を食べて……そうだ、生姜の温かい飲み物、おいしくないって言いながらよく飲んでた。
大丈夫だって言ったナミはきっと、そう言って聞かないと思う。彼女が頑固で、それから強いっていう事はまだ少ししか一緒にいないけど、濃い時間を過ごしてきた私には、わかる。ナミが風邪かはわからない。だけど何もしないより何かした方が良くなる可能性はある。おばあちゃんに教えてもらった作り方、小さい頃の記憶を辿りながらすりおろした生姜とハチミツをお湯に溶かした。
…私、何だか変わったなぁって、そんな気持ちになった。
「オオ!!なんだありゃあああ!!!」
そんな叫び声に視線を窓に向ける。いつの間にか皆が外にいる。私も扉を開けて少し顔を外に出すと、みんなの視線が向いているその方角にまたとんでもないものが見える。開いた口が塞がらない。こんなに大きい“竜巻”はテレビだって見たことがないのだから。
ただ、皆の様子を見ているとそう大変な事でもないらしい。船が向っている方向と違うからだろう。
とりあえず良かったとそんな気持ちになったのも一瞬、中に入ってきたナミの辛そうな姿に私も何だかツライと感じる。早く良くなるようにと、しんどそうなナミに私が作ったハチミツと生姜入りのホットドリンクを差し出した。
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