部屋の外が騒がしいのには気が付いていた。真っ暗な中、ゾロとルフィとナミが出ていった事にも気付いてた。何だか胸騒ぎがして寝られなかったから。だけど扉を開けるのが怖くてずっと目を瞑ったまま、動く事を諦めていた。
ドキドキしながら聞いていた物音は消える。かと思えばしばらくするとルフィがやってきて、私のお腹を抱えるように掴んで走りだした。驚いている暇もなく私の目に移る景色は凄まじい速さで流れていた。
「連れて来た!!」
「乗れ!いつでも出せるぞ」
ルフィが下ろしてくれて、既に船に乗っていたゾロさんが手を引っ張ってくれた。皆が乗り込み船は出航する。取り除けない胸のわだかまりにモヤモヤ、すると隣に私よりも大きな鳥が並ぶ。こんな不思議な生き物を見るのにももう慣れてしまったのだろう、驚きはあまり感じなかった。
「船を岩場にぶつけないように気をつけなきゃね。あー追手から逃げられてよかった」
「な!!!」
「誰だ!!!?」
初めて聴く声に皆が一斉にそっちを振り返る。またスタイル抜群で真っ黒な髪の毛、なんていうか凄く美人な顔立ちの女性が座っていた。
「何であんたがこんな所にいるの!!?ミス・オールサンデー!!!」
「今度は何!?“Mr.何番”のパートナーなの!!?」
「Mr.0のパートナーよ…!!!」
皆が真剣に、ほんの少し強張ったような表情でそんな話を始めるけれど、私に解る事は何一つなかった。ただ解る事はこの人が私たちの敵だということ。私たちを、腹の底から馬鹿にしているということ。
ゾロさんが刀を構え、ウソップはパチンコを構え、サンジさんも彼女の頭に拳銃を向け戦闘態勢に入る。…サンジさんが女性に、そんなものを向けるだなんて。皆も驚いているけれど、それ程にこの人が危険だ、と、言うことなのだろうか。
息を呑むのも忘れてしまう程の緊張感にぎゅうっと唇を噛み締める。するとサンジさんとウソップは何かに操られるかのように、ドスンとひっくり返り床に叩きつけられた。
「悪魔の実か!!?」
「何の能力だ………!!?」
「うおっよく見りゃキレーなお姉さんじゃねェかっ!!」
…サンジさんはただ、気付いていなかっただけのようだ。どうやら彼女も“悪魔の実”を食べた人らしい。それ自体をよく理解していないけれど、それを食べるとルフィのように身体が伸びるようになったりと不思議な能力が身に付くらしい。
ルフィの麦わら帽子が宙に浮き、引き付けられるように彼女の手の中。
「お前帽子返せケンカ売ってんじゃねェかコノヤロー!!!おれはお前を敵だと見切ったぞ出ていけコラァ!!!」
「不運ね…B・Wに命を狙われる王女を拾ったあなた達も、こんな少数海賊に護衛される王女も………自分さえも守れないような子を連れていかなきゃいけないこの船も」
目が合ってそう、呟いた彼女は薄ら笑いを浮かべていた。人を見下すような全て分かり切っているようなその口調に心臓が早まっていく。ぎゅうっと服の裾を握り締める。言われたことは確かで、確かに、私みたいなのを連れていかなきゃいけないこの船は、“不運”なのかもしれない。ああもう、せっかく前向きになれた気持ちは早速どこかに消えていく。
「俺らが誰を連れていこうがオメェには関係ねェ!!俺らの仲間もこの船の進路も、お前が決めるなよ!!!!」
「………そう、残念…」
生きてたらまた逢いましょう、そう言い残した彼女は大きな亀の背中に乗って去っていった。
ルフィの言葉が嬉しかった。仲間だって言葉が嬉しかった。だけど、その言葉が余計に胸を重たくさせた。こんな時に出てくる私のネガティブな部分が嫌になる。前向きにならなきゃと思うのに前を見れない自分が、大嫌い。信じると決めたのに、仲間だと言ってくれているのに、こんな気持ちになる自分が嫌いで嫌いで仕方ない。
「………私本当にこの船にのってていいのかしら……みんなに迷惑を…」
「なーに言ってんの。あんたのせいで私達の顔はもうわれちゃってんのよ!!メーワクかけたくなかったら初めからそうしてよ!!」
ナミは強い。きっとこの、ミス・ウェンズデーと呼ばれる女性だって強いに決まっている。私がこの場に居ることは、彼女たちが居ることとは全く違う。戦うことも、前向きになることも、信じることも仲間になる事も拒んでしまうような私なんかは、きっと、
「むー!あんたもまたそんな顔してんじゃないの!もう怖いものはないのよ私たちにも、むーにも。一人じゃないんでしょ?しっかりしなさい!!」
バシッと叩かれた背中が痛い。だけど私の胸はもっと痛い。そうだ自分が言ったんだ、ナミに、一人じゃないって。フラフラする感情に振り回されて、結局いつも1人なような気がしてたのはこんな自分のせいなんだってやっと今、気付いたような気がする。
「そうでしょ?ルフィ」
「朝だーっ!!サンジ朝メシー!!!」
間の抜けたルフィの声が響き渡る。
強くなるって決めた。だから強くなる。信じるって決めた。だから信じる。変わらなきゃいけない。だから私は、変わってみせる。
後ろに見えたサボテンを見据えて私は、大きく、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
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