朝、いつもよりも早い時間に目が覚める。時計を見なくても分かるのはまだ目覚まし時計が鳴っていないからだ。
時計を確認しようと手を伸ばしてみるが、今日はなかなかそれが見当たらない。顔を埋めていた枕から顔を上げると、そこにある枕がいつもと違う事に気が付く。
あれ、私が使ってた枕って白と黒のチェック柄じゃなかったっけ。それにもう少し固かったはず。
だけどそんな柄のない真っ白のそれは、明らかに昨日まで私が使っていたものではない。何でなんだろう、なんていう当然の疑問と共に身体を起こす。



「……」



見れば見るほどわけがわからなかった。まだ夢を見ているのかと思ったが、つねった頬や引っ張った皮膚は確かに痛みを感じている。
キョロキョロ見渡すここは、間違いなく、私の部屋なんかじゃない。

どうしよう、どうしよう。そんな焦燥感に駆られながら冷静に見渡した部屋は、よくよく見れば綺麗で広さの割りにはとても豪華な部屋だった。キョロキョロと部屋を見渡していると、ガチャッとドアの開く音。
オレンジ色の髪の毛にスラッとした容姿、スカートからはこれでもかと言うくらいに長い足が投げ出されている。そしてくりっとした力強い瞳が私を捕らえていた。



「あんた…誰?何してんの?」



しばらくの沈黙を破ったのは目の前の彼女だった。明らかに私を不審がっているその表情は、今にも飛び掛かってきそうな程に鋭く見える。…なんて、そんな風に冷静に物事を考えている余裕なんて私にはなかったけど。やばいと思った時にはすでに遅かったらしく、彼女は大きく口を開いていた。



「…ちょ、あの待っ、」

「何で人がいんのよ!!」



大きく響き渡った声に続くようにドタドタと聞こえた足音、そこに現れた2人の男に私の焦りが煽られていく。いやもうこれは焦りなんかじゃない、恐怖の域に達している。不気味なくらいに血の気が引いていくのが自分でも分かった。
やってきたのは緑色の髪に怖い顔つきをした人と、高いどうのこうのじゃなくて長い鼻の人。



「テメェどこのどいつだ!何でここに居やがる!!」

「いやあの、あの待っ、て…」



ありえないありえないんですけど何で今、今、私は刀を向けられているんだろうか。そもそも銃刀法っていうのに違反しているのではないのか――と、よくは知らないけど日本でそんな物騒なもの振り回してたら捕まることくらい私は知っている。
こんな恐怖は初めてだった。恐怖で涙が出そうになるのも初めてだった。



「何してんだー?」



緊迫した空気の中に響き渡る、間の抜けた声。うしろからひょこひょこ覗く麦わら帽子と大きな瞳、そこにいる3人を押し退けて前に出てきた人の田舎者っぽいその風貌に何だか分からないけれど酷く安心した自分がいた。



「で、あなたは何であの場所で寝てたわけ?」



今は改めてオレンジ色の女の人から尋問を受けている。殺すより先に聞かなきゃいけないことが沢山ある、と判断したらしい彼女がそうするようにしてくれたのだ。しかし、麦わら帽子の彼はもうここには居ない。
泣きたい気持ちでいっぱいだった。殺すより先に、というそれは、これが終わったら殺す、のと同じ意味で言っているのだろうか。殺す殺されるなんてそんな経験、勿論今まであるはずがない。日本と言う国も確かに最近は物騒だったが、まさか、まさか自分が巻き込まれるなんて考えた事もなかった。



「この船はもう私たちの船なの」



何も言わず黙り込んでいた私に痺れを切らしたのか、長い腕脚を組んだままオレンジ色の彼女がそう言った。そこまで聞いた後の言葉は何となくわかってた。出て行って、と投げ付けられたその言葉を意外と冷静に受け止めている自分がそこにはいた。


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