「ここが世界で一番偉大な海………!!!」
向かうは、そこ。目指した先は、すぐ目の前に広がっている。私にはよく分からない場所だったけど、確かにそれは広がっている。
―ブオオオオオ―と聞こえる何かの音。ゾロさんは疑問を浮かべるけど、ナミはこの音を地形のせいだと言う。ナミが言うならその通りだろうと納得してしまうけれど、どうやら理由はそうではないらしい。その音は目の前に現れた、大きな山のような物から聞こえているようだった。
「山じゃねェ!!!」
「クジラだァ!!!」
「どうする!!?」
「戦うか!!!」
「馬鹿ね戦えるレベルしゃないでしょ!!?」
山に見えていたのは実際は山なんかじゃなくて、クジラだったのだ。どれだけ戦いが強くてもこんなドデカイくじらには勝てないらしい。
船の上で慌てている皆を横目に、自分が意外と冷静に居られることが不思議だった。もう見慣れてしまったのだろうか。いやきっと、こんな怪物よりもずっと恐いものを沢山見てきたからなんだろう。
ドンッという音と共に船は止まる。メリー号の頭が私の足下に飛んでくる。…あ、折れちゃったんだ、なんて思った。
「お前一体俺の特等席に………何してくれてんだァ!!!!」
「アホーっ!!!」
それはルフィの特等席。これの上に座って海を眺めたり寝っ転がったり、確かにルフィがこれに乗っている姿はよく目にしていた。
だからこその怒り。ルフィはおもいっきりクジラのギョロッとした目に拳をぶつけていた。みんなは喧嘩を売るルフィを止めようとするが、クジラは大きく口を開けて水ごと船を、吸い込み始めた。
…やばいクジラに食べられちゃう、そう思った時には私の腕は何故かルフィに引っ張られ、またぐるぐると腕が身体に巻き付き私を離さなかった。
「ルフィ!!!」
「むー!!!!」
あっという間の出来事で何が起きたのかもまだ整理できずにいる。身体はまた水浸しで、私とルフィだけがクジラの背中に乗っていた。みんなは、クジラに食べられた、のか。
「おいお前!!!吐け!!!みんなを返せ!!!吐け!!!」
どれだけ叩こうが蹴ろうが殴ろうがびくともしない。グラッとふらつく足を踏張る。
「くそォっ!!!海にもぐる気だっ!!!おいやめろ!!待ってくれよ!!おれの仲間を返せ!!!これから一緒に冒険するんだ!!!大切なんだ!!!」
…なんだか胸が、ぎゅうっとなった。必死なルフィの姿に胸がいっぱいになった。
もうみんな、戻ってこないのかな、帰ってこないのかな、もう、みんなの顔、見れないのかな、って、時間が経ってようやく、そう気が付いた。
沈んでいくクジラ。
「むーこっちだ!!早く!!!」
言われるがままルフィの手を掴み、戸惑いのまま、本来ならばあるはずのない“クジラの中”に足を踏み入れた。
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