真っ青な空は、変わらずそこにある。同じ空なのに、あの時よりもずっと広々と、そして綺麗に見えたのは気持ちの違いなのかもしれない。



「うぎゃああああああっ!!」

「まだやってるぜ」

「そりゃそうだ。全治2年だと、普通なら」

「それで動くんだからイカレてるぜあいつ」



平和な村で、昨日と同じ場所に私はいる。隣にはサンジさんがいて、さっきのような会話をウソップと繰り広げていた。会話の話題はゾロさんのこと。やっぱりあの傷が開き切ってしまっていたようで、今はちゃんといたお医者さんに見てもらっている。
気持ちが、この空のように晴れ渡っている、そんな気がした。沢山泣いたから少し怠いけれど、それでも胸のわだかまりが全て取り払われたようにスッキリしている。



「それにしてもよー」

「なんだ?」

「むーもよくやったよな」

「………私、?」

「あぁ」



ウソップがそう言う。だけど私は何もしていない。ただそこにいただけで、それ以上の事はなにも出来ないから。



「私、なんて…何もしてない…」

「ンな事ねェさ」

「多分だけどよ、むーがナミの手を握ってなかったらきっと、あいつはあんな風には言えなかった」

「人の温もりってのは、勇気を出すには欠かせねぇモンなんだ」

「サンジお前、良い事言うなぁ」



…胸がぽかぽか、ふわふわした。どう応えればいいのかわからなくて、なんか気持ちだけが浮いているみたいな…照れ臭い、が、一番近い表現なのかもしれない。
今まで誰かの役に立つことなんてほとんどなかった。やらなくていい事は極力避けてきた。だから知らなかった。人の温もりがこんなに落ち着くことも、人の手があんなに温かい事も何もかも知らなかったんだ。
あの時手をつないでいたことで助けられたのは、きっと私の方。



「……空が綺麗だね」

「…何言ってんだ?」

「うるせぇ長っ鼻」

「なんだよサンジ!」

「見てみろお前も。むーちゃんの言う通りだぜ。こんなに綺麗な空を見るのは、初めてだ」



村では宴という名の盛大なお祭りがあった。賑やかを通り越して、こんな騒がしいお祭りは初めてだった。美味しいものいっぱい食べて、全く知らない村の人たちと色んなお話もした。
出航の時はすぐだった。ナミさんは最後までナミさんで、村人全員の財布をスっていた。



「この泥棒ネコがァーっ!!!」

「サイフ返せェ!!!」

「この悪ガキィーッ!!!」

「いつでも帰ってこいコラァ!!!」

「元気でやれよ!!!」

「お前ら感謝してるぞォ!!!」



みんな怒っている、だけどそれは愛情いっぱいのもの。わかっているからこそ、みんながこうやって笑えるのだ。



「じゃあねみんな!!!行って来る!!!!」



眩しい太陽と、同じくらい眩しいナミさんの笑顔。不思議とここは、居心地の悪い場所じゃない。そんな事を考えながら海を見ていた私の名前を呼ぶ、ナミさんの声が聞こえた。



「ありがとう!!!」



…太陽と同じくらい、じゃない。その時のナミさんの笑顔は、太陽よりもずっと眩しく輝いている。
これから何時まで続くか分からないここでの生活を、いつの間にかあの時ほど強烈に不安だとは思わなくなっていた。そりゃ少しはそう思う部分もあるけれど、だけどみんながいてくれれば大丈夫だって、そう、皆を信じようとしている自分がほんの少し、前よりも好きになったような気がしていた。



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