ウソップの大きな声に、バレると判断したサンジは舌打ちをしながらフランキーさんとウソップを縛っていた縄をほどいた。私の身体を抱えて、窓から脱出して今は列車の屋根の上にいる。雨風に揺られる列車の上でバランスを取るのは至難の技。ヘタリと座り込んだ私の腕をガッチリ掴んでくれているサンジのおかけで何とか落ちずにいるという感じだ。今はサンジが電伝虫を使って、ルフィたちに連絡を取っている最中だ。



『サンジーっ!!そっちどうだ!?ロビンは!?』

「ロビンちゃんは……まだ捕まったままだ。ナミさんから今事情を聞いたとこさ…全部聞いた…」

『そうか……いいぞ暴れても!!!』

『ルフィ!!無茶いうな!!俺たちが追いつくまで待たせろ!!』



電伝虫の向こうで、ルフィとゾロが言い争っている声が聞こえる。暴れてもいい、そう言うルフィと、一人は危ないから皆が着くまで待ってろ、そう言うゾロ。結局ゾロはルフィの言葉に納得してくれるわけだけど、そのルフィの言葉っていうのが、ちゃんと皆の事わかってるんだなって。“お前ならどうした”“止めたって無駄だ”なんて、そんなの。ルフィの器を改めて知り、そして彼の存在の大きさがまた私を安心させる。



「おうマリモ君、おれを心配してくれてんのかい?」

『するかバカ!!……そこに、むーもいんだろ』

「むーちゃん?…ああいるさ…心配しなくても元気にやってるぜ…」



私を見て微笑んだサンジを見詰める。しっかり握ってくれているその腕は、力強くて心強い。サンジは私に受話器を差し出してくれて、それを受け取り小さく声を出す。



「ゾロ?…ルフィ?」

『むーか!!?』



向こう側から、ゾロやルフィ、ナミ、チョッパーの声も聞こえてきて、余りに大きな声に思わず受話器を耳から離した。



『サンジくん!!そっちが危険なことは分かってる…けど!!…むーを危険な目に合わせたら許さないからね!!!』

「おおっと、ナミさんか?心配しねェでも…俺が何とかするさ」



受話器を返すと、サンジはまた話を進めていく。



「マリモ君はおれの心配してくれてるみたいだが…」

『してねェよバカ』

「だが残念…そんな、ロビンちゃんの気持ちを聞かされちゃあ…たとえ船長命令でも、おれは止まる気はねェんで!!!」



バキッと握り潰された受話器。そのサンジの表情には“本気”が浮かび上がり、思わず私も息を呑む。そして瞼を閉じて、一度軽く息を吐き出す。パチッと開かれた目は相変わらず鋭くて、ウソップに自分たちが何をしようとしているのか、この船に来た理由を説明している。私が初めて聞く内容でもある、それを聞いて胸が重くなり、私と同じようにウソップは下を向き、表情は見えないけど何かを想っているんだってわかった。



「ロビンちゃんはメリー号の件もルフィとお前が大喧嘩した事も…何も知らねェ…だから……お前を含めたおれ達7人が全員無事でいられる様にと、ロビンちゃんは自分の身を犠牲にしてあいつらの言いなりになってたんだ…――おれ達の為に」



私たちの、為に。
真っ先に泣き出したのはフランキーさんでびっくりしちゃったけど、私だって泣きたくなった。本当に何も知らなかった自分が悲しくて、悔しくて。自分が被害者みたいな、寂しいのは私なんだって勝手にそう思い込んでた。でも本当はそんなわけなくて、私なんかよりずっと、寂しくて悲しくて、痛い、辛い思いをしてたロビンがいて。



「チキショー何てこったァ…!!ニコ・ロビンってのは世間に言わせりゃ冷酷非道の“悪魔の女”のハズ…それがどうだその“ホロリ仲間慕情”………!!!」

「ロビンちゃんは目と鼻の先にいる!!とにかくおれは救出にいくぞ!!!」



サンジがそう言って歩き出す。号泣しているフランキーさんの言うことは、そうなんだ…なんて、まるで他人事くらいにしか思えなかった。確かに最初の印象は良くなかったし、怖くなかったと言えば嘘になるけど、悪魔の女とか冷酷非道とか、そんな言葉に繋がる姿は一つとして浮かんでこない。ロビンは優しくて賢くて、強くて、私にとっても皆にとっても頼れるお姉さんのような存在だから。



「よし!!!この“フランキー一家”棟梁フランキー!!!手ェ貸すぜマユゲのお兄ちゃん!!理由あって実はおれもニコ・ロビンが政府に捕まっちゃあ困る立場にあんのよ!!!何よりそんな人情話聞かされちゃあ…おい!!長っ鼻!!!行くぞ!!!」

「……おれは………いいよ」



フランキーさんが誘った、ウソップはそれを断った。背中を向けていてその表情も気持ちも読み取れない。



「もう…おれには関係ねェじゃねェか。いよいよ“世界政府”そのものが敵になるんだったはおれは関わりたくねェし…ルフィ達とも合流するんだろ…!?あれだけの啖呵きって醜態さらして、どの顔さげてお前らと一緒にいられるってんだ!!!ロビンにゃ悪ィが…おれにはもう助けに行く義理もねェ!!!」



“おれは一味をやめたんだ”“じゃあな”…――なんて。そう言ったウソップは、また、私たちの前を去っていくのだ。ウソップが言ったことは、立場は違うけれどなんとなくわかる部分もあって。あれだけの大喧嘩をして、今さら…っていうのもあるのかもしれない。サンジも呆れたように“ほっとけ”なんて言うから、だから、不安とか、そんな気持ちでいっぱいになって。



「ここから先が本当の“危険”だ…」

「あ!!見つけた……」



腕を組んだサンジが私を見ていた。やっぱり私、邪魔なのかなって、不安になったけどそんなの、最初から知ってる。そんな事を考えていると、窓から海軍の人が私たちを見つけて声をあげる。不意打ちだったのか、サンジも焦ったような様子。



「“メタリック・スター”!!!」

「誰だ!!!」

「話は全て彼から聞いたよ…お嬢さんを一人…助けたいそうだね。そんな君達に手を貸すのに理由はいらない、私も共に戦おう!!!」



飛ばされた海軍の人と、それを飛ばした誰か。聞き慣れた声に振り向いて、その姿を眺めてみる。嵐のせいかピントがなかなか合わないけど、すぐに見えてくるその姿。



「私の名は――“そげキング”!!!!」



黄色のマスクに赤のマント。中の人物なんてすぐにわかる。不謹慎かもしれないけど笑いそうになって、だけどそれを堪えて、嬉しい気持ちが胸にじんわりと広がっていた。


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