出発する列車に乗り込んだのは、列車が発車してからだった。駅員さんたちの制止を振り切って、私を抱えるようにして飛び乗った。敵だらけの列車の中には勿論、入れるはずもなく、私とサンジは最後方にいる。枠があるから投げ出されることはないと思うけど、この激しい揺れと水飛沫ではしっかり掴まっていないと放されてしまいそうになる。



「めちゃめちゃ濡れるな…一服もできやしねェ…!!!………さてどうやってこっそり中へ侵入しようか…」



激しい嵐の中で船の外にいて、おまけに海水も全身に浴びてるんだからそりゃびしょ濡れにもなる。どうしようかとサンジが考えている横で、私は床に座り込んで振り落とされないようにしっかりとしがみつく。これじゃ本当にただの邪魔者だ…って、マイナスな気持ちにもなりそうになったけどそんな気持ちを振り払うようにして首を横に振る。



「むーちゃ……」

「いやァ外はすごい嵐…」



サンジが私を呼んだその時、私たちの前にあったドアは突然“ガチャ”と音を立てて開いて見せた。そこに現れたのは背丈が大きくてガタイがよくて真っ黒なスーツを着た人。一瞬バッチリと目があって、その時間は正に空白の時間。お互いがその存在を理解した瞬間、サンジはその人を扉が破ける程の力で蹴り飛ばした。



「誰だ貴様ァ!!!」

「ぎゃーっ!!」



そんな叫び声が響いたのもその瞬間。破れた扉から、向こう側に居た人全員が私とサンジの存在に気付いた…――私を庇うように前に立ってくれたサンジのおかげでどうやら私には気付いていないらしい。チラッと私を見たサンジとほんの一瞬だけ目が合う。言葉はないがその目は“そこに隠れてろ”と私に伝え、私はその通り静かに膝を抱えて座った。
後ろから、壁越しに聞こえてくるのはサンジが戦っている音。人を薙ぎ倒していく物音と振動が全身に伝わってきて、私はぎゅっと膝を抱き締める。静かになるとドアからサンジが私を覗きこみ、そしてその手で私を引っ張っていってくれる。倒れている人を避けて進み、前の車両に乗り込む。そこに居た数人の敵もサンジが難なく蹴り倒し、そしてそこにいる人物に涙腺が緩む。



「サンジ!!…むー!!お前らが何で“海列車”にいるんだ!!?」

「そりゃあ………こっちが聞きてェよそこの…あー名前など存じませんがそこのキミ」



サンジがワザとらしくそう言い放って、すぐに視線は船内の他の場所に向く。そこには電伝虫が何匹も並んでいて、噛み合わない会話が続いてて。



「お前ら…つまり海賊仲間か……」

「元な」



二人の言葉がピッタリ重なったのはその言葉で、私は知らず知らずのうちに眉間を寄せていた。今、こうやって一緒にいるのに、もう仲間なんかじゃなくて、まるで他人のようで。他人のようだけど、やっぱりそうとは言い切れない何かがあって、複雑な気持ちになった。
そしてウソップの隣に居る、鮮やかな水色の髪の、不思議な人。ひどい怪我をしているようで顔からは血が流れ出ている。



「おれァ、ウォーターセブンの裏の顔!!“解体屋”フランキーだ」

「てめェがフランキーか!!!クソ野郎!!!よくもあん時ゃウチの長っ鼻をえらい目に!!!」



そんな自己紹介に何故だか逆上したサンジが、フランキーと名乗った彼の顔面を思いっきり蹴りあげた。ウソップはそれを止めていたし、その会話は、私が知らない何かがあったんだって言っているみたいで、何があったのかなんて聞けないけど、それが良くないことだって事くらいしか私にはわからなかった。「縄をほどけ」っていうフランキーさんとサンジは口喧嘩、その声はどんどん大きくなってヒートアップしていく。



「おいてめェらやめろってのに!!グズグズしてたら見つかっちまうだろうがァ!!!」



そんな、ウソップの声が何より大きく響き渡る。外は嵐で天気も悪い。その風音や雨音でこの声が掻き消されていますように、と、そう願うことしかできなかった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -