知らない街をただ歩く。強い風が吹き付け、何故だか少し悲しい気持ちになる。…何故だか、なんかじゃない、本当に、悲しいんだ。
町に居る人は入り口や出口をしっかりと閉じている。昨日来たときはあんなに賑やかだったのに、今はもう閉鎖され始めている状態。高潮って言ってた、みんなそれに備えているのかもしれない。街が水に浸かるって言ってたんだから当然なのかもしれないけど。



「おいお嬢ちゃん、そんなとこほっつき歩いてねェで早く安全なところへ行った方がいい」



小さく頷いて、私はまた歩き出した。辺りをキョロキョロしても知っている姿はどこにもなくて、気分もどんどん落ち込んでくる。この町は広い。もう2度と、誰にも会えないようなそんな気さえしてくる。気がするだけだって思いたい。一人じゃ何も出来ない、悔しいけどそれは本当のことで、こんな町に一人じゃ、もうどうしたらいいのか分からない。今でさえそうなのだ。もうやだ、やだ。会いたい、皆に会いたい、早く…――会いたい。



「…―――むー!?」



下を向いていた顔を上げる。そこに、居た。私が会いたかった人たちが居たんだ。ああもう、やだ、やっと会えた、会いたかった、やっと、やっと、



「むーちゃん!!?」



涙が止まらない。戸惑うチョッパーが私の周りをウロウロと歩き回り、サンジが優しく髪を撫でてくれる。たった1日なのに、もう何日も会っていないような気がして、一人ぼっちだったような気がして、寂しかったんだ。怖かったんだ。



「むー!どっか痛いのか!?」

「よしよし、泣くな泣くな」



ぼろぼろ落ちる涙を優しく拭ってくれる。こういうのが迷惑なんだって、こういうのがダメなんだって分かってるのに、だけど、自分でもどうしようもないくらいに気持ちが溢れ出てくる。2度と会えないかもしれないって思ってた。会えたんだ。それだけで、こんなにも嬉しくて、安心したんだ。



「ウソップはどうした?」

「お…俺、じゃ、護れないから、っ…皆のところ、に行け、っ…て…」

「…そうか、」

「っ…も、会えないかと思った…っ!!」



溢れる気持ちが止まらない。こんな気持ちになったことなくて、だからどうしていいか分からなくて。また泣き出した私の髪を撫でて、ンなわけねェだろって優しく笑った。



「例えむーちゃんが俺らのこと嫌いになって2度と会いたくねェっつっても、こっちがそんな簡単に離すわけねェンだ。なァ、チョッパー」

「そ、そうだぞ!お、おれむーのこと大好きだから…!」



私だって、きっと私の方が皆のこと大好きで…――大好きなんだ。



「感動の再開なんだが…俺らにはまだやらなきゃいけねェことがある」



涙を拭ったサンジが優しく、だけど険しい表情で私の顔を覗きこむ。



「チョッパー」

「ん?」

「お前……ルフィ達と合流して今あったこと…全部話して来い………!!一言一句漏らさずな」

「サンジは?むーはどうするんだ?」

「おれは少し…別行動を取る…まァ心配すんな…無茶はしねェから。むーちゃんは…どうする?この先どっちに付いても、必ず危険な目には合うだろうな。どっかでかくまってもらうのが一番安全だ…」




安全なんて、今はもう求めてなんかいない。皆が危険な目に合う中で、もう私一人が安全な場所になんて居たくない。皆が危険なら私だってそれでいい。もう護ってもらえなくたっていい。一緒に居られたらそれでいい。一人ぼっちはもう嫌なんだ、迷惑かもしれないけど、でも皆と一緒がいいんだ。



「……じゃあむーちゃんは俺と一緒に行くか。こっちの方が恐らくは危険は少ないはずだ」

「わ、わかった!おれ、行ってくる………」

「どうした」

「ロビンは…おれ達が嫌いになったのかな…」



…―ロビンに、何かがあった。何があったのか、よく知らない、だけど大変なことになってるのはその空気でわかる。



「チョッパー……一つ覚えとけ」

「…?」

「“女のウソ”は……――――許すのが男だ」



チョッパーに背を向けて、サンジは私の手を引き歩き出した。引かれるままに私も歩く。
大きく息を吸う。涙で濡れた汚い顔を自分の手で拭い、サンジが握ってくれた手をぎゅっと、ギュッと握り返した。


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