『おれと決闘しろォ!!!!』



そんな、今。メリー号を前に、ルフィとウソップが向き合い、睨み合い―――――決闘、なんて。
見てられなくて、見ていたくなくて。私は膝を抱え、膝に顔を埋め、二人の決闘を見ようとはしなかった。見たくなかったから、見なかった。いろんな声や音が聞こえてきて、それが、ウソップとルフィ、お互いを傷つけ合っているんだって分かってたから。



「お前がおれに!!!勝てるわけねェだろうが!!!!」



―――分かってたから。ウソップが勝てないこと。ウソップが敗けるってこと。決闘が終わり、この広い景色に響くのは穏やかな波の音。



「じゃあな………ウソップ……………むー」



ルフィから言われた、さよなら。こんな日が来るなんて思いもしなかった。思いたくなかった、んだ。
どうして私はここにいるんだろう、って。私を拾ってくれたのはルフィで、ナミで、ゾロで、ウソップで。サンジに出会って、チョッパーに出会って。色んな旅をした。いっぱい泣いて、怒ったり、困ったりもしたし、だけどいっぱい笑ったりして。皆と過ごした時間は一体どれだけなのかはっきりとは解らないけど、もう何年もこうやって一緒にいるような錯覚をしている。それくらい私にとっては濃すぎた毎日だったのだ。



「ウソップ〜!!!!むー〜!!!!!!」



聞こえてくるチョッパーの叫び声。ああまた、泣いてる。チョッパーは良く泣くからなぁ、って、そう、思いながら私だって泣きたくて仕方ないんだ。…って、言いながらもう泣いてるんだ。
前を向けないまま沢山の足音が聞こえた。皆が居なくなる、そんな悲しい足音。チョッパーの嗚咽が聞こえた。ナミが鼻を啜る音も聞こえた。だけどそれだけ。…――もしかしたら誰かが止めてくれるんじゃないか、って。そんな期待は無惨にも散って行く。離れていく足音に、これが夢じゃない現実なんだって思い知らされる。



「…むー……行こう…」



ズルズル―と身体を引き摺る音がした。どうやら知らない間に涙は止まっていたらしい。私が顔を上げると、私が思っていた以上に傷だらけのウソップが私に手を差し伸ばしてくれていた。これが、ルフィにやられた傷なんだ、って。ルフィは本気だったんだ、って。そう思うだけで直ぐにまた涙が溢れそうになった。



「…………むー」



涙が溢れないように腕で目を押さえる。どうしてだか、私はウソップの手を掴むことが出来なかった。一人で立ち上がった私は、ウソップを見ないように、背を向けて歩く。後ろからウソップの足音が聞こえた。聞かないように、聞こえないように。私はいつも寝ている部屋に閉じ籠もる。ベッドに横になったらまた、涙が溢れていた。


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