「アーロンッ!!!!」



ナミさんの力強い声が響く。目の前にいる、まるで漫画に出てくるような怪物に怯みそうになる。だけど、ぎゅうっと握られたその手がある限り、大丈夫なようなそんな気がしていた。
強いって知っているサンジさんとゾロさんが傷だらけで怪物の足元に倒れているのが見えてた。怖いのは嘘じゃない。だけど、二人とも死んでない、まだ生きてる。
覚悟を決めたばかりなのに、その恐怖に打ち勝たなきゃどうするんだと、弱くなりそうな自分の心を奮い立たせる。だって私は一人じゃない。みんなも一人じゃない。



「ナミ…と、はっ、弱そうな小娘だな。今ちょうどどこぞの海賊どもをブチ殺そうとしてたとこだ。何しにここへ?」

「あんたを殺しに……!!!」

「殺しに!?シャハハハハハハハハハ!!おれ達といた8年間…お前がおれを何度殺そうとした…?暗殺…毒殺…奇襲…結果おれを殺せたか!!?貴様等人間ごときにゃおれを殺せねェことくらい身に染みてわかってるはずだ…!!!」



アーロン、そう呼ばれた怪物が並べる言葉に、身が震えるのを感じる。下品な笑い声が耳に、頭に響く。



「いいか…おれはお前を殺さねェし…お前はおれから逃げられん…!!!お前は永久にウチの“測量士”でいてもらう」



ナミさんが私の手を握る力が強くなるのがわかった。それは痛いほどの力で、私も思わず同じように握り返した。
アーロンは続ける。ナミさんには測量士を続けてほしいと。ナミさんが一味に戻ってきて海図を書いてくれるなら村のみんな“だけ”は助けてやってもいい、と。だけど倒れているサンジさんとゾロさんは違う。まるで石ころのように傷だらけの身体を蹴り、踏みつける。
こんな残酷な怪物に、ナミさんはずっと、身を捧げていたなんて。
何も知らなかったけれど、ほんの一部を知っただけだったのに締め付けられる胸。本当はこの何十倍、何百倍…きっともっと想像できない程の痛みを味わっていたんだと思うと胸が張り裂けそうになった。



「ナミ…お前はおれの仲間か?それともこいつらの仲間か…?」



まるで結果が分かっているかのような不気味な笑顔にゾッとした。ナミさんの肩が強張ったのがわかった。私も同じように肩に力が入る。帽子をぎゅうっと握るナミさんは、きっと、迷っている。
村のみんなもヤジを飛ばしている。当然だ、卑怯者のやることをアーロンは平気でやっている。
気付けば私も震えていた。腹が立って、それから、悲しい気持ちでいっぱいになる。そんな時、強くて優しい瞳を持ったナミさんの笑顔が頭に浮かび、彼女の言葉を思い出した。



「…ひとりじゃ、ない」



震える唇が絞りだした言葉が聞こえていたかはわからないけれど、ぎゅうと握りなおされた手は、しっかりと私たちを繋いでいた。
ごめんみんな、そう、ナミさんが叫ぶ。どよめく村の人たち。どちらのごめんなのだろうと、きっと皆が考えている。



「私と一緒に死んで!!!」

「ぃよしきたァ!!!!」

「なるほど全員ブチ殺し希望か…」



恐怖は増すばかり。だけど何故か、どこかでは大丈夫だと思う自分がちゃんといる。根拠なんてどこにも、何もないけれど、だけどナミさんの言葉に嬉しいと思う自分がいたんだ。
その瞬間、塀の向こうから何か噴水のように水が噴き出すのが見えて、辺りが一瞬静まり返る。



「まさかルフィの兄貴!!!!」



そこからはまるで流れるように動き始める2人。サンジさんはプールに飛び込み、ゾロさんがよろめく身体で剣を握る。あの傷でよくあんなにも動けるなぁなんて心配にもなったけど、信じようって、きっと大丈夫っていう自信がどんどん大きくなってくるのだ。
不思議だった。つい数時間前とは全く反対の感情だらけで、これが本当に自分なのかなって、変な気持ちになった。
そのうちゾロさんがアーロンに掴み上げられる。やはり弱っているらしく次々にアーロンに傷つけられる。悲痛なゾロさんの叫び声に塞ぎたくなる耳。剥がされた包帯、そこで露にされた傷からは目を背けたくなる程の血がダラダラと流れ滴る。この傷を、私は知っている。彼の勇気と自信、そして強さを表した勇敢な傷痕なのだ。
苦しそうで、だけど自信に満ちあふれた声でゾロさんは言葉を並べていく。



「このゲームは…おれ達の勝ちだ」

「戻ったァーっ!!!!」



その2つの言葉は、私たちを勇気づけるには十分すぎる言葉だった。伸びてきたルフィの腕がアーロンに捕まれたままのゾロさんを掴み、ルフィが飛んできた代わりに飛んでいくゾロさん。
空から飛んできたルフィに、皆が喜びの声を上げる。彼は救世主。きっと彼ならやってくれる、と、そんな気持ちにさせてくれるルフィに、全員の瞳が希望に満ち始めていた。


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