お金を取られたのは自分のせいだと騒いでいたウソップが落ち着くと、張り詰めていた空気が和やかになった。ルフィはいつもみたいに笑っている。お金に関することだけどナミもそこまでは怒らなかった。今、一番大事なのはウソップの身体だからだろう。
「……じゃあやっぱり…金は戻らねェのか…」
「いやそれもフランキーってのが帰ってこねェとわかんねェんだ。もしダメでもまだ1億ベリーもあるんだからいいよ!気にすんなよ!!」
ルフィが笑うけどウソップはやっぱりかなり落ち込んでいるようだった。命があったらよかったものの、とそう言ったサンジの言葉にウソップがどれだけ壮絶な戦いをしたのかがよくわかった。いつも大丈夫だっていうサンジが命を心配をしたんだから、そりゃあもう、本当に凄かったんだろう。もう一度すまねぇと謝ったウソップが、希望を見付けたように本題に入る。
「だけど…じゃあ船は…メリー号は1億ありゃ何とか直せるのか!?せっかくこんな一流の造船所で修理できるんだ、この先の海も渡って行ける様に今まで以上に強い船に…!!!」
「いや、それがウソップ」
ウソップの言葉を遮ったのはルフィだった。表情はいつもと変わらない。
「船はよ!乗り換える事にしたんだ。ゴーイングメリー号には世話になったけどこの船での航海はここまでだ」
いつもと変わらないルフィがそう言った。ハテナを浮かべたのは私だけじゃない、ウソップも同じだった。私もウソップもびっくりして、言葉が出ないままルフィを見た。…え、船を乗り換える、って。
「ほんでな、新しく買える船を調べてたんだけどカタログ見てたらまァ1億あれば中古でも今よりデカイ船が…」
「待てよ待てよ、そんなお前…!!冗談キツイぞバカバカしい!……何だやっぱり修理代…足りなくなったって事か!?おれがあの2億奪られちまったから………!!金が足りなくなったんだろ!!!一流の造船所はやっぱ取る金額も一流で…」
「違うよそうじゃねェ!!!」
「じゃ何だよはっきり言え!!!おれに気ィ使ってんのか!!!」
「使わねェよ!!!あの金が奪られた事は関係ねェんだ!!!」
「だったら!!!何で乗り換えるなんて下らねェ事言うんだ!!!」
「おいお前らどなり合ってどうなるんだよもっと落ちついて話をしろよ!!」
「落ちついてられるか!!バカな事は言い出しやがって!!」
「ちょっと!!大事な話なんだから順序よく…」
「ちゃんとおれだって悩んで決めたんだ!!」
ウソップとルフィの言い合いはどんどんヒートアップしていく。途中でゾロとナミが入るけど、そんな言葉も耳に入らないように二人は今にも掴み合いになりそうになっている。こんな場面は初めて見た。こんな本気の喧嘩、初めてで。胸が不安でいっぱいになる。そこに響いたのは、
「メリー号はもう直せねェんだよ!!!!」
冗談でもなんでもない、そんなルフィの心からの悲痛な叫び声だった。
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