目が覚めたのは、真っ暗な部屋の中。寒いっていうそんな感覚を体に感じながら、どこかだるいような身体を起こして辺りを見回した。ここは私たちの部屋なんかじゃなくて、三つ並んだベッドにはルフィとロビンも横になっている。周りには、壁にもたれるように寝ているゾロと、チョッパーを枕にしているナミと、机に顔を突っ伏しているウソップとサンジ。



「………」



思い出していた。あのときのことを。小さく深呼吸をして、音を立てないように私はゆっくりと地面を踏み締める。ピリッとする痛みを感じながら、私はそっと部屋を出る。
当然ながら見渡す海も真っ暗で、映る月がゆらゆら揺れる。半袖で肌寒いのは、私が凍っていたからなのだろうか。腕をさすると温かく感じる。



「寒ィなら大人しく寝てろ」



パサッと掛けられたのはタオルケットで、隣に立ったのはもうその声でわかる、ゾロだった。彼は何も言わないし、私も何も言うことはない。ただ二人で並んで海を眺める。
私はあのときの事を思い出していた。青キジさんが言ったこと、ロビンのこと、あのおじいさんのこと、青キジさんのこと。あの時は長く感じたあの時間が、今になってみればもう過ぎたことだと“過去”になる。思い出す物事には現実味がなくて、夢だったんじゃないかってそんな事を思う自分がいる。



「…ゾロ」

「……なんだ?」

「腕は大丈夫?」

「…………ったくテメェは……人の心配より自分の心配しやがれ」



と、乱暴に私の頭を撫でる。何でもねェよあんなの、そういった彼の表情はどこか少し不機嫌そうだった。
何と無く、見詰めた自分の手。小さくて、綺麗とは言い難いその手はやっぱり少し冷えている。不思議そうに私を見たゾロは、それから「ちっせー手だな」と自分の手と見比べる。並んだ二つの手は、大きさも太さも全然違う。強さも責任感も生き抜いてきた環境も、何もかも違う。私の手はただ、頼りない。
小さくため息を吐いた私に、ゾロはもっと大きなため息を吐いた。



「お前はいっつもそんな顔だな」

「…そんな、顔?」

「不細工だっつってンだよ」

「……ぶ、不細工…」



余りにストレートな言葉に思わずたじろいだ。自分でも自分の事を可愛いだの美人だのと思ったことはないけど、まさか、こうもハッキリ言われてしまうとは。予想外すぎるゾロの発言に受けるダメージは意外と大きい。予想外に私が落ち込んだからか、ゾロも少し動揺しているように見えた。本心、で言った訳じゃない…と、思いたい。…彼の本心はわからない、けど。



「辛気臭ェ顔してンじゃねェ、って事だよ」



彼の大きな肩が私の身体にぶつかり、大きく揺さぶった。びっくりして彼を見ると、ゾロは眉間にシワを寄せて睨み付けるように海を見据えていた。



「何が不安なんだよオメェは」



呟いた言葉が響き渡る。それは私への問い掛けで、それに対する答えは私自身が一番よくわかっている。…ようで本当は、何もわかっていないのかもしれない。その不安はいつも漠然としている。消えたり出てきたり、それはいつでも不安定。



「私にもわからない」



わからない。



「私、一体何者なんだろう」



何者、なんだろう。
いろんな事がまた私の頭を掠めていく。そしてまた不安になる。何度も救われて、何度もみんなに感謝して。だけどそれを繰り返したところで拭い切れない不安が、次々に生まれてくる。大丈夫、信じてる、大丈夫、私は一人じゃない。何度も言い聞かせた言葉も、時間が経てばそれはまた芽生えてくる。繰り返し繰り返し、私はそうやってここまできた。私が異質な存在だってことは私が一番よく知っている。だから不安で、だからこそ、自分が何者か知りたいのだ。



「お前はお前だ。それ以外の何でもねェよ」



ガシガシ、彼は彼らしく私の頭を乱暴に撫でる。不思議だと思う。これで、これだけで私は酷く安心してしまうのだから。撫でられた頭に泣きそうになりながら、私はそれを隠すようにゾロに軽く体当たり。

私は、私。答えになっているようななっていないような、そんな言葉が私を救ってくれる。


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