「政府はまだまだお前達を軽視しているが…細かく素性を辿れば骨のある一味だ―――少数とはいえこれだけ曲者が顔を揃えてくると後々面倒な事になるだろう。初頭の手配に至る経緯、これまでにお前達のやってきた所業の数々――その成長の速度…長く無法者共を相手にしてきたが末恐ろしく思う……!!!」



緊張の糸は張りつめたまま、青キジさんはその言葉を続ける。座ったまま動き出すことはないが、その言葉の重みや鋭さがこちらにまで伝わってくる。



「特に危険視される原因は…―――お前だよニコ・ロビン」

「お前やっぱりロビンを狙ってんじゃねェか!!!ぶっ飛ばすぞ!!!」

「懸賞金の額は何もそいつの強さだけを表すものじゃない。政府に及ぼす“危険度”を示す数値でもある。だからこそお前は8歳という幼さで懸賞金首になった」



ルフィの言葉なんてまるで聞こえていないかのように、青キジさんは自分の言葉を並べ続ける。



「子供ながらにうまく生きてきたもんだ。裏切っては逃げ延びて…………取り入っては利用して…………そのシリの軽さで裏社会を生き延びてきたお前が次に選んだ“隠れ家”がこの一味というわけか」



ロビンについては何も知らなかった。不思議な人だとは思っていたけど、怪しいとか危険な人だと言う思考は一緒に過ごしているうちに消え去っていた。出会いは確かに最悪だったのかもしれない。危険人物だということも、青キジさんにしてみれば間違っちゃいないんだろう。だからと言って……―――彼女が今、私たちを利用しているなんてそんな思考には繋がらなかった。



「おいてめェ聞いてりゃカンに触る言い方すんじゃねェか!!!ロビンちゃんに何の恨みがあるってんだ!!!」

「やめろサンジ!!!」

「別に恨みはねェよ…因縁があるとすりゃあ…一度取り逃がしちまった事くらいか…昔の話だ。お前達にもその内わかる。厄介な女を抱え込んだと後悔する日もそう遠くはねェさ」



青キジさんの言葉はサンジの怒りを買ったらしく、サンジも怒りを露にしている。張りつめた糸は今にも切れてしまいそうで、強張った身体を動かすことは出来ないでいる。誰一人その場を動こうとしないのは、次に出てくる言葉を待っているからなのだろうか。



「それが証拠に…今日までニコ・ロビンの関わった組織は全て壊滅している。…何故かねえニコ・ロビン」

「やめろお前!!!昔は関係ねェ!!!」

「成程…うまく一味に馴染んでるな」

「何が言いたいの!!?私を捕まえたいのならそうすればいい!!!」



ルフィが声を荒げ、そして次に声を荒げたのはサンジやナミなんかじゃない。ロビン自身だった。こんなロビンは今まで見たことがなくて、事態が思ったよりも深刻なことにようやく気が付くのだ。そしてプツン、と糸が切れたその瞬間に、ロビンが出した何十本もの腕が青キジさんをガッチリ掴み、そしてボキッという音と共に彼を折り曲げていた。ガラガラと音をたてて砕け落ちた彼は、……何事も無かったかのように。砕けた身体をひとまとめにするように、地面から生えてきた、のだ。
地面から引っこ抜いた草を投げ、それに息を吹き掛け出来た武器が“アイスサーベル”と呼ばれた氷の剣。それを振りかざした彼を止めたのは、



「“切肉”」



ゾロの刀。それにより受け止められているアイスサーベルを蹴りあげたのがサンジだった。そこに突っ込んでいくのはルフィで、少し油断していたのだ。この三人なら…と。それは私だけじゃないはずで、きっとナミもウソップもチョッパーも、どこかでそう思っていたに違いない。



「うわ!!」

「ぐあァ!!!」

「おああああっ!!!」


「ぎゃあああ凍らされたーっ!!!」

「あの3人がいっぺんに…!!!」



アイスサーベルを受け止めた刀を握っていた腕を青キジさんの右手が掴み、アイスサーベルを蹴りあげたサンジの足は青キジさんの左手に捕まり、そして青キジさんのお腹に向かっていったルフィの固く握られた拳が、一瞬にして凍ってしまっていたのだ。倒れこみ悶える3人を余所に、次の瞬間彼が向かっていったのは



「…………いい仲間に出会ったな…………――しかしお前は…お前だニコ・ロビン」



ロビンだった。ガバッとロビンを抱え込むようにして、そして彼女もまたみるみるうちに凍っていく。ゴクリ、と息を呑む間もなく彼の視線が次に捉えたのは私で、



「さてお嬢ちゃんは…一体何者なのか……」

「…わ、たし…は………」



まるで氷のような冷たい腕が私を包み込む。否……“氷のような”ではなく彼はもう“氷”なのかもしれない。



「…むーちゃん……!!!」

「むーーっ!!!」



聞こえてきた悲痛な叫び声を遠くに感じながら、私の意識はその瞬間にストップしていた。


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